そんな厳しい環境で、いまクローズアップされているのが、IPビジネスだ。IPとは、Intellectual propertyの略で、日本語では「知的財産」と訳される。知的財産法によりを保護される知的財産権には特許権、意匠権、商標権、著作権、営業秘密などがある。
日本ではまだあまり知られていないが、世界の勝ち組と言われる大企業は、シリコンバレーのインキュベーターが手がけるIPを買収することにより、その後、自社で製造、マーケティング及びセールスを行えば、グローバルなビジネスを展開できることを熟知している。
有名な例でいうと、アップルのリサ(マウス)をデザインコンサルティングファームであるIDEOが手がけていた様に、シリコンバレーには、あらゆるIPを販売するインキュベーターが存在するのだ。
大企業は発明できない
なぜそのようなビジネスが必要なのか? なぜIPビジネスが成り立つのか? 医療分野において、実際にIPビシネスを展開しているシリコンバレーのインキュベーター企業INCUMEDxの創業者兼CEOであるBJ氏に話を聞いた。
BJ氏は、世界最大の医療機器企業のひとつであるボストンサイエンティフィックで18年間働いた後、日本最大の医療機器企業であるテルモへ転じ、国内主要病院の医師と直接仕事をした経験のあるアメリカ人医療機器発明家だ。
グローバル企業で働いた経験から、彼は「大企業は発明を行うには向いておらず、時間がかかり過ぎる」ことをよく理解していた。大企業には生み出すことができず、本当に社会が求めている潜在的なニーズを満たす製品をスピーディーに発明するにはどうすればよいか。そこでIPビジネスの出番となる。
彼は、「ある製品をつくるとして、日本企業が開発するのに5年かかるところを、自分たちなら1年で開発できる」と言う。理由は、「ジョンソン・エンド・ジョンソンや、メドトロニックなど世界トップクラスの企業で働いた経験があり、スピーディーに開発を進められるエンジニアチーム(エンジニア15名、コンサルタント5名)が社内にいるから」ということだ。
INCUMEDxでは、患者への負担を減らす技術や医師に欠かせない医療デバイスを発明し、大企業に対して、IPとノウハウとマニュファクチャリングプラント(自社で作り、シリコンバレー以外の違う場所に持って行き建設したもの)をパッケージで販売するスキームで、IPビジネスを展開している。ここでいう“ノウハウ”とは、1000ページにも及ぶマニュファクチャリングインストラクションで、相手企業の国の言語と英語で作成される。
世界中を見てみれば、オンライン上でIPを販売するサービスもあり、IP Market Placeというマーケットプレイスも存在する。IPをネット上だけで販売するこのような企業は、22サイトもある。
今後、日本でも海外のIPを買収したり、または、世界を相手に自分のIPを販売したりしていく日本初のインキュベーターが現れ、大学発や研究機関のビジネスを拡大させていくことを期待したい。
連載 : イノベーション・エコシステムの内側
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