彼はアメリカで5本の指に入るトップクラスのヤング・アーティスト・プログラム、「リリック・オペラ・オブ・シカゴ」のライアン・オペラ・センターに3年所属し、昨年卒業。その後、日本でも本格デビュー。ちょうど帰国前、昨年12月には、米コンクールでグランプリを取ったばかりだった。
私自身、アメリカのオペラハウス運営の研究しており、ヤング・アーティスト・プログラムについて調査をしていたところだったので、年始の会食の場では、若手オペラ歌手育成の話題で盛り上がった。
将来を約束する「コンクール優勝」
大西さんが勝ったコンクールは、ニューヨークで行われた「プレミア・オペラ財団国際声楽コンクール」。そこで、優勝すると同時に、第2位に匹敵するホロストフスキー特別記念賞も受賞した。下世話な話だが、賞金は合わせて8500ドル(約100万円)ほどになる。
金額はさておき、なによりこのコンクールがすごいのは審査員の顔ぶれで、ここで高く評価されれば今後のキャリアにプラスになるだろうと感じられる。審査員15人の中には有名歌手や指揮者もいるが、それよりも、様々なオペラ団体のキャスティングのカギを握るアドミニストレーション・スタッフが顔を揃えているからだ。
アメリカのオペラ団体においては、アドミニストレーション・スタッフの仕事が確立されており、彼らの権限は非常に強い。そこで、ほぼ満場一致でダブル受賞したということは、将来のキャリアに大いにプラスだ。
もちろん、有名な音楽家の意見もほしいけれど、彼らが仕事をくれるわけではない。仕事を歌手にくれるのは、キャスティングに決定力がある人たちだ。だから、コンクールの真価は、いかに大きな団体のディレクターが来ているかにもかかっている(審査員としてでも、そうでなくても)。
つまり、コンクール自体は一度きりのお祭りだけど、若手の登竜門としても機能するわけだから、仕事につながらなかったら、歌手にとっても審査員にとっても、お互いにやる意味がないでしょう? というのがアメリカ流。そこで勝って終わりではなく、その後のキャリアまで考えられているというのは育成において大きな意味を持つ。