米シンクタンクのブルッキングス研究所は、将来的に米国内の約3600万の雇用が人工知能をベースとした自動化システムに代替される可能性があるとするレポートを発表した。これは米国における全雇用の4分の1にあたる数字だ。研究所の関係者は、それら既存の雇用がAIに代替されるまで、数年の短いスパンから20年間ほどかかると説明している。
人工知能など自動化システムによって特に代替が進む職業としては、料理人(調理スタッフ)、ウェイター、短距離トラック運転手、事務職などが挙げられている。産業別には、飲食業とホテルが大きな影響を受けると予想された。
数年前、この手のデータが発表された際には生活的な実感があまり湧かなかったものの、新たなAI技術や製品が次々と登場し始めた現在においては、とても現実味を帯びた予想になってきている。
実際に飲食業を例に取れば、世界各国ではキッチンやホールの作業を自動化するAIベースの自動化システムが次々と登場しているし、数年前とはうってかわって人件費削減・効率化効果が数字としても目に見え始めている。ホワイトカラー職を代替するAIの数が急ピッチで増加していることは言わずもがな。これまで大規模な製造業の工場で起きてきたファクトリーオートメーションの波が、社会全体に広がってきている感がある。
トランプ政権が国内雇用の保護のために自国ファースト主義を強化している米国では、移民やオフショアが問題の本質ではなく、テクノロジーや自動化の発展が人間そのものの雇用を減少させていると論じる人々もにわかに登場し始めている。雇用が減少している理由は自動化にあるという論理は証明しづらいが、「メキシコ人のせい」「中国のせい」などナショナリズムに訴えることは比較的容易だ。
自動化と労働に関連するネガティブな知見が、あまり蓄積されていないという現在の状況は、世界に大きな禍根を生むリスクに繋がりかねない。日本でも移民政策が緩和の方向で舵を切っているが、自動化の影響を見誤った際、外国人との新たな対立問題が浮上してくる可能性がある。
なお、米国の労働市場分析企業、Burling Glass Technologiesが発表したレポートによれば、多くの雇用主がビッグデータ分析など、デジタル技術およびデータを利用できる創意的なマインドを持った労働者を望んでいるという。言い換えれば、数字やデータを根拠とした分析能力と、直感的な創造力を兼ね備えた「スーパー労働者」ということになる。
人工知能が仕事を奪わないまでも変えていくことは確かであり、我々は生き残るための新たな手段や能力、そして社会的知見を養う必要に迫られている。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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