中村氏によると、TCS社長兼CEOのラジュシュ・ゴピナタン氏は「日本は、複数の企業が協業して業界や国の枠組みを超えて共存共栄をするエコシステムがまだ小規模で、市場が拡大する余地がある。TCSのネットワークを活かし、デジタライズされたエコシステム市場を生み出すショーケースとして、国際企業が集まる東京が最適だ」と考えたといいます。
また、日本とインドの親和性が高く、お互いを尊重しあいながら、足りないものを補い合いつつ、オープン・イノベーションに発展させていけるともみており、文化や人々のケミストリーも考慮しての選択だったようです。
中村氏自身は日本の現状を、「自前主義が強みだと考えている企業が多く、他企業や大学などの外部組織と協働して価値を創造するオープン・イノベーションが不足している」と分析。「オープンに色々な人と連携して仕事を進めていく方法を身につければ、日本企業はもっと飛躍できる。TCSペースポートはその橋渡し役になりたい」と、思いを語ります。
具体的には、どうすればデジタル変革を起こせるのか、インドをはじめとするグローバルな事例を多数持つTCSのナレッジを活かすために、日々活動しているそうです。
TCSの活動は多岐にわたりますが、特徴的なものに「TCS Innovation Day」と呼ばれる顧客支援イベントがあります。
ある企業の特定の課題に対して、クライアント企業とTCS社内、さらには連携している3500以上のスタートアップ、東京大学やコーネル大学など50以上の学術機関を動員し、4〜6週間かけて徹底的に議論したのち、PoC(Proof of Concept、考えた案が実際に動くかの検証)を提出するというもので、TCSにはこうして産官連携が根付いていると言えます。
強い思いが変革を生んでいく
私見ですが、中村氏をはじめとする日本チームの「日本を元気にしたい」「日本型のデジタル変革を実現したい」という熱い想いも、東京が最初の拠点となった理由の1つではないかと考えました。
欧米では一般的になっているオープン・イノベーションですが、お互いに貢献しあうこと、貢献したいと思えるマーケットや課題を共有できていることなど、成功に導くために全員が理解しなければならないポイントがあり、特にスタート時には、「これをやり遂げたい!」と強く希求できる人物がいることも重要な要素だからです。
インドに溢れる理系ブレインパワーと日本のビジネスを融合させながら、日本企業におけるデジタル変革を進めていく。それによって、日本企業にイノベーションを起こし、鈍化している競争力を高ていく。そうなれば、「日本が元気になる!」と中村氏は力強く話します。
タタ・グループが、こうした熱い「人」と「想い」に寄り添う企業だというのは、ムンバイ同時多発テロ時の「思いやり経営」「超顧客志向」にも通づるものがあるように思います。地域社会の中に生きる人を幸せにすることを強く望み、ソリューションとして「デジタル変革」していく。そんな展開が日本から広がっていくことが楽しみです。
連載:「グローバル思考」の伸ばし方
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