米国医師会(AMA)の研究者が、全米規模の医師データベースからデータを収集したこの調査では、「テレヘルス」や「テレメディシン」と呼ばれる遠隔医療の利用が、米国の医療制度ではまだ標準的なものになっていないことが明らかになった。
AMAの経済および保健政策調査部門のキャロル・ケーンとカート・ギリスは「Health Affairs」に、「2016年、患者とのやり取りで広範囲に遠隔医療を採用している職場で働いているという医師は15%だった。患者とのやり取りとは、例えば電子的な訪問や、遠隔医療を使ってデータを保存・送信するX線技師が行う診断などを含む」と書いている。また、「同じ年、医師や医療専門家のあいだのやり取りに遠隔医療を採用している職場で働いている医師は11.2%だった」という。
一方、「Health Affairs」によるこの報告の前には、ハーバード大学の調査チームが11月27日付けで米国医師会雑誌(JAMA)に発表した報告があった。この報告では、30を超える州において、バーチャルな医療提供者に対して健康保険の適用と支払いを求める法律が通過したにもかかわらず、遠隔医療経由の医師へのアクセスは「まれ」だとされている。
こうした調査がある一方で、遠隔医療を提供する企業は増えている。アメリカン・ウェル(American Well)、MDライブ(MDLive)、テラドック・ヘルス(Teladoc Health)といった数々の新興企業が、商業健康保険の企業と契約を結び、顧客に対して、スマートフォン、タブレット、コンピューターを通じて医師にアクセスできるようにしている。
また、従業員が医療サービスを使いやすくなるよう、雇用者側が遠隔医療を採用するケースも増えてきている。必要がないのに、コストが高い救急室に行ったり、医師のオフィスに行って高い医療費を払うことを避ける上で、遠隔医療が役に立つのだ。
AMAのケーンとギリスが「Health Affairs」に発表した調査では、AMAが全米の医師から回答を集めた2016年診療ベンチマーク調査のデータが使われている。
医師が遠隔医療技術を使うかどうかには、職場の規模が関係しているのかもしれない。大きな医療グループの医師や病院で勤務する医師の場合、患者のケアやほかの医療専門家とのやり取りに、遠隔医療を使う可能性が高くなる。
AMAの研究者であるケーンとギリスは、「医師が患者とのやり取りするための(遠隔医療の)利用は、職場の規模がいちばん小さいカテゴリーだと8.2%、いちばん大きいカテゴリー(医師50人以上)だと26.5%と、幅がある」と書いている。「このことが示唆するのは、規制や法律が遠隔医療を促進する方向に変わっても、小さな診療所では、実装の金銭的な負担が引き続き障害になっているのではないかということだ」
もっとも、遠隔医療を提供する企業によると、診療室であれ、患者であれ、医療提供者間であれ、空前の成長が続いている。
テラドックによると、「訪問の成長は、アクセスの成長を引き続き上回っている。訪問の累積年間成長率は63%を越えている」
テラドックは声明で、「まずはバーチャルを利用すべき状態がどんなときで、どのように使うのかについて、患者の理解が進んでいるのは間違いない」と述べている。また、「医師の利用を詳しく見ると、病院と医療システムによる遠隔医療の利用は、この1年で著しく増えている。遠隔医療を初めて採用した施設の数が引き続き増えているほか、定着したプログラムでは、遠隔医療を十分に活用するための使用事例がどんどん追加されている」という。
MDライブは、一般消費者による遠隔医療の利用トレンドを、銀行や旅行、マッチングなどのオンラインサービスの初期になぞらえる。いずれも、今は主流的なサービスとなり、拡大を続けている。
MDライブのリッチ・バーナーCEOは、「MDライブでは2018年、医療関係のオンライン訪問が、2017年の同時期と比べて75%近く増加した」と語る。「こうした成長を支える理由がある。この規模で全国にサービスを提供していると、すべての臨床医と診療所に関してコストと質の管理が容易になる。こうした管理と透明性を、まさに今の消費者は求めているのだ」