ビジネス

2019.01.17

外資金融は「終わった」のか? 正道を貫かない会社は存在意義を失う

著者・時国司 オービス・インベストメンツ(日本法人)代表取締役社長


人間はインセンティブに沿って行動する性質を持つ

これを、金融業界に照らして考えてみるとどうでしょうか?金融といっても広範なので、中でも最も情報の非対称性が大きいと思われる資産運用について考えてみたいと思います。

資産運用会社の顧客が目指す利益は何でしょうか?おそらく「運用リターン」ということで間違いないと思います。となると、運用会社側も自身のインセンティブを「運用リターン」に置くことが肝要です。

運用会社も営利組織ですから、収益拡大を志向するのは自然なことであり、あるべき姿です。そして、運用会社にとっての収益源は、運用報酬です。従って「運用リターン拡大 = 運用報酬拡大」となるように、運用報酬体系を設計すれば良いわけです。そうすれば、その会社の従業員は、自然と顧客が必要とする運用リターンのために仕事をするようになります。

今日資産運用業界では、定率の運用報酬体系が広く使われています。即ち、運用資産額に一定の料率をかけて報酬額が算出されるものです。しかしこうなると、運用リターンがマイナスでも、運用報酬が払われることとなります。

また、定率の運用報酬体系下では、運用会社のインセンティブが運用資産額拡大に置かれがちです。なぜなら、会社として収益を拡大させる唯一の手段が、運用資産額拡大になってしまうからです(運用資産額×運用報酬料率=収益)。

運用資産拡大のためには、新規投資を受けるか、運用リターンをあげて有機的成長を実現するか、2つの方法があります。後者ならばインセンティブ設計としては正しいものです。しかし、前者の選択肢を残してしまうことにより、より容易な方に流れる虞があります。実際に、大きな営業チームを抱える運用会社が多いのが現状です。

運用資産額が拡大しても、顧客(投資家)にとっては、マイナスはあれどプラスはありません。更に、運用資産拡大を経営資源を割いた営業活動によって実現しているとすれば、なおさらです。

投資家が必要としているものが運用リターンであるとすると、インセンティブを運用リターン向上に置きたいところです。そこで、運用報酬体系を運用リターンに連動させることが肝要です。

運用リターンが出ればその一部を報酬として払うが、運用リターンが出なければ払わない、マイナスのリターンが生じれば従前支払った運用報酬が払い戻される、というような運用報酬体系であれば、顧客と運用会社との利益一致が相当程度担保されます。

「そんな報酬体系じゃ運用する意味がないなあ」という運用会社がもしあれば、それは「運用リターンを出す自信がない」と言っているに等しいです。従って、当該運用報酬体系は運用会社の質を量るバロメーターにもなります。

営業活動自体が顧客にとって厄介者であるもう一つの背景は、誤った投資行動が誘引されがちであることです。例えば、営業担当者にとって売りやすいのはどんなときでしょうか?それは、ファンドのリターンが良いときです。

逆に、ファンドの乗り換え(解約)を勧めやすいのはどんなときでしょうか?それは、現状保有しているファンドのリターンが悪く、他にリターンの良いファンドを持っているときです。しかし、それはまさに「高く買って、安く売る」行為です。投資の基本と真逆です。

職人として仕事をすること

欧州で半世紀にわたって長期投資を続けてきたような運用会社のオフィスに行ってみると、「職人の仕事場」という印象を強く受けます。


オービス・インベストメンツ、ロンドン事務所の様子。(Photo: Matthew Rose)

オフィス内がとても静かで、投資アナリストたちが口もきかずにただただ企業分析に没頭しているような様子が見られます。そこは例えば、靴職人の親方とその弟子たちが、日々切磋琢磨しながら技を磨き、とにかく良い靴をつくることだけを考えて日々を過ごしているような、そんな空気感でした。

この人たちは、お金や名誉のためではなく、純粋に投資が好きで、投資家として成長し優れた結果を出すために、日々ここに来ているのだなということが伝わってきました。

なけなしの資産を預けたい相手は、職人か、ビジネスマンか。

外資系であれ、日系であれ、正道をとことん考え抜き追究する会社が残り、そうでない会社は早晩存在意義を失うと考えます。

文=時国司

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