一方、BigTech企業は、既に世界的銀行よりも時価総額が大きく、信用力も高く、国境を越えて活動している。歴史的視点からみれば、テンプル騎士団やメディチ家がそうであったように、いずれこれらの主体に対し、金融機能の提供も求めるニーズが出てくること自体は、当然予想される。
さらにBigTech企業は、情報の集積を巡る伝統的な銀行の優位性を揺るがす可能性を秘めている。デジタル情報技術の進歩により、情報をマネーや複式簿記を通じて翻訳してから集めるのではなく、人々のeコマースの取引履歴やSNSなどから得られる情報やデータを直接かつ大規模に収集し、金融を含む広範なビジネスに活用していくことが、(現実に行うかどうかは別として)少なくとも技術的には可能となっている。アリババによる”Zhima Score”の融資への利用などは、その典型である。
この中で銀行側も、既存の手法を超えた情報・データの収集や活用に向けた協力関係の構築などを、本年も一段と進めていくだろう。しかし、現在とりわけ注目されるのは上述のようなBigTech企業の動向だ。
BigTecg企業は今や、クラウドの提供者としても競って巨大な計算力を築きつつあり、既存の銀行の側でも、これらを抜きにビジネスを考えることは難しくなっている。この中で金融当局としても、支払決済や金融の安定を確保していく上で、伝統的な金融機関の枠を超えた新たな担い手の動向に注目していくことが、一段と求められている。
また、情報をマネーを通じて抽象化することなく、そのまま大量に集めるプラクティスが広がっていることは、情報セキュリティやプライバシー、サイバー攻撃などの問題がますます重要になっていくことと表裏一体である。
そして何よりも、BigTech企業が既に国境を超えた巨大な存在であることは、これへの対応が金融など個別の施策にとどまらず、時に国家戦略や安全保障などの問題とも関わり得ることを意味しており、このことが各国に新たな政策課題を投げかけている。
十字軍を支え、フランスにも支援を与えていたテンプル騎士団は、その強大化に伴って教皇庁からもフランスからも徐々に警戒され、ついには敵視されるようになっていった。このような歴史を踏まえても、技術革新の果実を金融サービスの向上という形で得ていく上では、当局がこうした新しい主体と建設的に対話できる関係を築いていけるかどうかが、大きな鍵となるだろう。
連載:金融から紐解く、世界の「今」
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