ウェルビーイング実践者たちが語る「持たざる生き方」



予防医学研究者の石川善樹

廣田
:ちなみに、「ウェルネス」「ウェルビーイング」という言葉は、厳密に意味を定義できるものなのでしょうか?石川さんは、「ウェルネス」「ウェルビーイング」についてなにか定義をされていますか?

石川:はい。なにか物事を考えるときに「反対の概念ってなんだろう」と考えると理解しやすいので、まずは、「ウェルビーイングの反対とはなんだろう」と考えてみましょう。

この答えは「ウェルハビング」なんです。「being」に対して「having(持つ)」ですね。このようにぼくは、「be」 という生き方と、「have」という生き方の2つがあると思っています。

これは、社会心理学や哲学を研究しているドイツ人、エーリッヒ・フロムの本『生きるということ』に書かれていることです。「have」というのは、例えばお金や権力など、いろいろなものを持つ人生のことです。人は、「なにかを持てば生きられるに違いない」「不安がなくなるに違いない」と思いがちですが、「どれだけhaveしても不安はなくならない。むしろ増える一方だ」というのがエーリッヒ・フロムの答えです。

廣田:おもしろいですね。

石川:「have」ではなくて、これからは「be」で生きようと言っているんです。「be」というのは自然体で、起きた状況に対してただ反応すること。

例えば、「人と会う前に情報を調べて向かう人は、haveの人だ」と本に書いてありました。「have」の人は、会う前にその人のことをいろいろ調べて情報をhaveして会いに行く。「be」 の人は、なにも調べずにその人とのディスカッションを楽しめる人。

ジャムセッションみたいに、その場に行って「一緒にセッションしたらいいものが生みだせる」という自信がある人は、「beの生き方ができる」と書いてありました。

内間:「自分を信じている人」なんでしょうか。よく海外では「今を感じて、今を生きろ」といわれています。どうなるかを難しく考えず、その場をエンジョイしよう、と。

石川:そうですね。「ウェルビーイング」というのは、「今」にフォーカスを当てること。過去や未来、今を大切にするという1番わかりやすい考え方です。要は、その場に反応して生きているということですよね。


元電通の廣田周作

廣田:ローザさんの「ウェルビーイング」の定義は、どのようなものですか?

内間:わたしは、「ウェルネス」と「ウェルビーイング」の意味が、よく一緒になってしまっていることが気になっています。「ウェルネス」とは、個人のことであって、自分の心と体の健康のこと。

「ウェルビーイング」、「being」とは自分の健康だけではなくて、家族や職場の人の健康も含まれます。あとは金銭面の安定性や、コミュニティーの中での自分のミッションなど、全体性のある考え方なんです。

組織の中でも、自分だけ健康でウェルネスでいてもあまり意味がないですよね。周りといかに良い関係を持ってプロジェクトをまわせるか、などが大事です。

石川:相手の立場になって考えるって、すごく難しいことですよね。

内間:面白いなと思ったのが、Googleで出世する人って「EQ」が高い人なんですよ。EQとは「感情的知能」と訳され、相手の立場になって考えられる人や、ポジティブな考え方ができる人のことをいいます。

石川:なるほど。EQが高い人のキーワードは3つあります。「I understand you(あなたのことを理解しています)」「I feel you(あなたが感じていることがわかります)」「I want to help you(あなたの手助けをしたい)」の3つです。

内間:グッドリスナーですよね。チームを引っ張るのではなくて、押し上げられる人が出世していきます。

石川:あとは、年齢によっても「ウェルビーイング」の「ウェル」の意味が変わるといいます。若いときは「上昇すること」に幸福を感じるそうですが、歳を重ねると失うものが多くなるため、「失ったものを受容すること」が幸福につながるようになる。「ウェルビーイング」も人によって変化していくんです。

廣田:人それぞれ、なにが嬉しくてなにが嫌で、などという定義がありますよね。「エンパシー」という言葉がありましたけど、相手の立場に立って、ちゃんと考えていくことが大切だと思いました。今日はどうもありがとうございました。

文=須崎千春

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