──取引コストが激減し、もはや企業を維持する必要性がなくなるブロックチェーン時代が到来したら、大企業は生き残れるのでしょうか。経営者にとって、前途多難な未来が待ち受けているのでは?
そうは思わない。生き残れるかどうかは、今、どのような決断をするかにかかっている。テクノロジーが事業にもたらしうる影響や効果を軽視し続ければ、行き詰まるのは確かだが、今、すぐに始めれば、大丈夫だ。テクノロジーを活用すれば、業界をけん引するリーダーになれる。
大企業の最高経営責任者(CEO)なら、ブロックチェーンやAIを使って問題を解決する戦略を立てるべきだ。まず、ブロックチェーンやAIでコストを削減し、事業の複雑さを低減させるのも一手だ。とはいえ、これは必要不可欠なことであって、それだけでは十分でない。今日のことだけ考えていては、将来、テクノロジーが会社や業界をどう変えるのか、という大切な問題を見逃してしまう。
コスト削減や相乗効果にフォーカスするのはけっこうだが、未来に思いをはせるべきだ。市場を変革し、時代に乗り遅れないためには、どうすべきか。最も重要なのは、今、始めることだ。テクノロジーの魔神は、もう瓶から飛び出してしまっている。テクノロジーで事業を転換させるのも、旧態依然とした人事体制を変えるのも、すべて経営者しだいだ。リーダーシップを発揮するチャンスである。
──ヒエラルキー重視の日本の大企業では難しそうですね。
従来の組織が素早く動きにくい理由の一つに、「レガシー・カルチャー」がある。長年、受け継がれてきた企業文化のことだ。勤勉など、優れた文化もある一方で、保守主義や決まりきったやり方など、イノベーションや変革を阻むものもある。もろ刃の剣だ。
だからこそ、一人一人の幹部が、この問題を真剣にとらえなければならない。テクノロジーのリーダーシップは、上層部から始めるべきだ。イノベーションラボなどを設けている大企業も多いが、トップ自らが乗り出さないかぎり、何も変わらない。イノベーティブな思考法を進んで取り入れるCEOや経営陣が必要だ。
(トップには)大胆であれ、と言いたい。
第2次デジタル時代にあって、米イーストマン・コダックや(米ビデオレンタル大手)ブロックバスターの二の舞は演じたくないだろう。両社とも、インターネット時代に乗り遅れた。ブロックチェーンに背を向ければ、同じ運命が待ち受けている。
未来から選ばれる企業になるには──。
答えはシンプルだ。ブロックバスターにはなるな。(米動画配信大手)ネットフリックスになれ、ということだ。
アレックス・タプスコット◎カナダ・トロント生まれ。投資銀行での実務を経て、父のドン・タプスコット氏と共に『ブロックチェーン・レボリューション』(邦訳・ダイヤモンド社)を共著、世界的なベストセラーに。ブロックチェーン関連ビジネスのアドバイザリーを行うノースウェスト・パッセージ・ベンチャーズ社創業者兼CEO。