「アーティストが待っているだけの時代は、もう終わった」そう語るのは、京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻に在籍しているアーティストの皆藤齋。
自尊心を損なう行為や非道徳的な行為から生まれるナルシシズムをテーマに作品を制作している理由や、海外のアート業界と比較することで見えてくる日本アート業界のいま、そしてこれからのアーティストのあり方について語った。
──皆藤さんは、幼稚園生の頃からが画家になりたかったそうですが、きっかけはなんだったのでしょうか。
基本的に、絵を描くこと以外あまりできなかったんですよね。勉強も運動もあまりできなかったし。でも、絵を描けば褒められたんです。原体験を考えると、そこが一番の理由かもしれません。
9歳の頃に家でインターネットが使えるようになって、パソコンで描いた絵をお絵かき掲示板のような場所へ投稿するようになりました。
掲示板って、本当にひどいんです(笑)。投稿した絵に対して「このへたくそ」「何なのこれ?」みたいなコメントが平気で書かれたりする。悔しくて、「この中で一番人気者になってやる」とひたすら描いて投稿していました。
勉強も運動もイマイチで、唯一絵を描くことで他からの承認欲求を満たしていた。でも、掲示板に投稿すると叩かれるわけです。そんなことを経て、いま改めて「私にとって絵を描く行為ってなんなんだろう」と考えると、癒やしや自己表現ではなく、「戦い」であり「サバイブするためのツール」なんだと思います。
Volunteer Alligator 2018 oil on canvas
──絵を描くことは「戦い」だったと。
そうです。中学生になるとpixiv(イラストや漫画を投稿するウェブサービス)が出て、投稿した絵に点数がつくようになり、さらに私の戦いは加熱していきました。ランキングには載らないけど、コアなファンからは評価されるようなニッチなテーマで作品を作るようになったのはこの頃からです。
私は基本的に不器用なので、いわゆる「上手な絵」は描けません。それまでは好きなペインターや評価されている作品を模写しようと頑張ったこともありましたが、上手くいかないんです。でも、その不器用さが逆に自分のオリジナリティを作っていると納得するようになりました。この自己肯定感の高さが「ナルシシズム」というテーマや、現在の画風に繋がっています。