その「Global field trip」の始まりは、私の出身地である岐阜県の「観光局長」という行政マンとしてのものだった。現在は、民間人の「観光国際戦略アドバイザー」として、主に地方自治体の方々とともに、世界各国をめぐる日々が続いている。
そんな旅の合間にいつも思うのは、日本人が海外に向けて発信しようとしているものと、世界の人々が日本に求めているものの間には、確実に何らかの差異があるということだ。
あの城にはサムライが住んでいますか?
世界へ向けてのマーケティングでは、各国の観光データを基にして、プロモーションを行う対象国を決め、販売戦略を立てる。確かに、その数字はひとつのリアルかもしれないけど、現実(リアリティ)とは少し違う気もする。実際、日本人が捉えるリアルと、世界の人々が見る日本へのリアルとの間には、かなりのギャップがつきものだ。
もちろん、こうして私が書く「世界の人々」という言い方にも、ひとくくりにはできない多様性がある訳で、それぞれギャップの現れ方も千差万別だ。各国で経験したギャップも、些細な出来事から大きな事件まで、それぞれ、まさにダイバーシティのマーケットのような様相を呈しているというのが、この10年間の印象だ。
その些細な出来事のひとつとなるが、後にプロモーション戦略を考えるうえでとても役に立った体験を紹介したい。
確か2010年ごろだったと思う。シンガポールの富裕層を対象にした岐阜県のプロモーションを、現地の旅行会社と提携して行い、その結果として一定の知識階層(だからこその富裕層)の方々の誘致に成功した。
その方々を岐阜にご案内し、たまたま長良川越しに金華山と岐阜城を河畔から見ていただいたとき、ある弁護士一家のご主人が印象的なひと言を発した。
「あの山の上に見えるお城には、まだサムライが住んでいるのですか?」
えっ、と驚いたそのときの私だったが、満面の笑みをたたえて訊ねるご主人の言葉には、純粋無垢に、そうあってほしいという期待感を山盛りに感じた。
もちろん、城の中にサムライなどいない。城の中には、殺風景な資料館があるだけだ。いくらなんでもこの時代にサムライがいるなんて、彼は本気で私に尋ねているのだろうかと内心思った。そして、瞬間的にどう応えようかと葛藤した。「ご冗談を!」と言うべきか、「So sorry!」と謝るべきか。もしくは……?