──なぜ、そこまでして?保育園と法人契約を結ぶのも一つの手だと思うのですが。
久保:途中から「もう、引き返せない」という一種の意地もありましたが、とにかくスタッフのためにということに尽きます。あくまで理想は、子供と一緒にオフィスに通勤できて、一緒に帰れる、そんな会社にしたい。理想の保育園がなければ、デザイナーとしてのキャリアを本気で考えられないと思ったんです。
だから、保育園のプログラムも、あくまでお母さん目線です。リトミック(リズム教育)とかが巷では流行ってますけど、うちは子供用のヨガを導入予定です。保育園で子供にヨガを教えて、できるようになったらお母さんと一緒にヨガができるようになれば、健康増進にも繋がりますからね。あとデザイン会社らしく、子供アートも考えています。
保育園を受け入れる“町側”も、変わらなければならない
久保:近年、「企業が主導して保育園を作りなさい」と国や自治体が声をあげていると思います。自社ビルを持っている大手企業などはいいかもしれませんが、我々のような中小企業が保育園、保育施設を設置するとなると、新たに場所を借りる必要があります。
事前に施設を抑えて、家賃を払い続けるということも当然負担でしたが、それ以前に、「貸してくれない」という現状があったのです。少なくとも3カ所くらいに断れられました。なかには契約した後に、保育園に設置を目的ということを伝えたら、契約を破棄されたということもありましたね。
──なんと......国として、企業内保育園の設置は推奨されているものだと思うのですが。
久保:「景観が壊れる」であったり、「子供に何かあったら責任が取れない」というところが大きいのではないでしょうか? 僕自身もすごくびっくりしました。そういう理由で断られると思ってもみなかったので。
そもそも、子供を受け入れるための施設はもちろん、「まちづくり」から、しっかりしないといけないとは感じています。反対運動が起こったというケースも聞いているので、それってどういうことなのかなとも思ったり。
ウチの場合、一棟借りだからクリアできた訳ですが、今の物件に出会えなかったら、きっと断られ続けていたのかなとも思っています。
いちデザイナーとして、女性社員の人生もデザインするという責任感
──久保さんの中で、念願だった企業内保育園が開設されたと思うのですが、次にデザインしたいこと、ってありますか?
久保:テレワーク、リモートワークとの掛け合わせができればいいなと思っています。「この日は預けて、この日は在宅で」といった使い分けができれば、うまく使い分けできるじゃないですか?
デザイナーに限らずではありますが、新たなアイデアを考える時、“間”であったり空白となる時間が必要になりますよね。
作業ベースの時は子供と一緒に自宅で仕事をすればいい。今日はアイデアを考える日としたい場合は、企画や着想に集中するために子供を預ければいい。そんな使い分けができる施設になればいいなと。まぁ、今のルール的に難しいところはあるのですが。
僕自身、経営者であり、いちデザイナーです。デザイナーと聞くと、表面的なデザインをする仕事とだけ思われがちですが、決してそんなことはありません。
広告やWebサイトを通して企業とユーザーのコミュニケーションをデザインするように、保育園を通して社員や地域住民とその子供たち、そして全ての人の人生をデザインしている、それくらいの気概を持っています。