勤務体系が柔軟であることは当然、重要だ。それに働いている人との相性も極めて大事だろう。オフィスの環境に関しても、言わずもがな、だ。
まとめてみると、つまり働くとは、要は生きること。働きやすさを追求するということは、スタッフが生きやすくなるということなのではないだろうか。
大阪・本町。大阪でも洗練されたエリアとして注目されるこの街で、ひっそりと企業内保育園を立ち上げた会社がある。その名は「グラインドニード」。創業6年のまだ小さなデザイン会社で、当然、資金力に内部留保がある歴史ある企業でもない。
幸福なイベントである出産が、女性デザイナーの未来を奪っている現実
なぜ、デザインを主軸とする会社が保育園事業を……いや、企業内保育園を作ろうと思ったのか。グラインドニードの代表である久保具隆氏はこう答えた。
久保:この業界って労働時間が長くて労働環境が悪い=離職率が高い、と思われがちですが、ウチの場合、離職率が極めて低かったんです。長く、ずっと働いてもらえる制度・環境は作れているなという自負はありました。
ただ、“出産”となると別なんです。この業界は時に作業が深夜に及ぶケースも少なくない。他の職種の方も子育てしながら働くということは生半可ではないと思うのですが、この仕事には納期という、最大のネックがあります。「子供が熱を出した」「病気になった」という場合、突発的な理由で納期をずらすことは現実的に難しいですからね。
──家族であり身体がもっとも大切なはずが、それを理由に納期の調整を行なうというのは現実的に難しい部分がありますね。実際、そこでキャリアが絶たれてしまったケースなどもあるのでしょうか。
久保:子供が生まれてからキャリアが断たれてしまったという、全国的に著名な女性デザイナーさんも存在しているんです。これっておかしな事象じゃないですか。名の売れた人でそんな状況なら、普通のデザイナー達はなおさらそうです。
だったら、会社の近くに保育園を作ろうと。そこに預けてもらって働ければ、安心じゃないですか。将来的には病床保育(専用スペース等において保育及び看護ケアを行うという保育サービス)まで担えれば、子供に何かあっても働けるじゃないですか?
50万円の家賃を28カ月、払い続けてようやく建設の許可が通った
2015年10月、こうして久保氏は保育園の設立のために情報収集、そして活動を始めた。色々と調べている中で、中小企業としては、過酷すぎるとも思えるルールにぶち当たることになる。
久保:保育園を開業する際の申請って、建物を借りていないとできないんですよ。つまり、物件を抑えた状態じゃないと保育園が開業できないと、というか申請できない。申請して通ったら借りるということが出来ないので、中小企業が簡単に手を出せるライトなルールじゃないんですね。
大企業とかは資金力があるから、まだいい。ただ、ウチのような中小というか、極めて小さなデザイン会社にとっては、非常にこたえましたね……。
──ちなみにいくらくらいのカラ家賃を支払ったのでしょうか?
久保:家賃50万円の物件を28カ月、合計で1300万円を支払っています。当然、施設の工事費などは別ですよ(笑)。トータルでかかった金額は言えませんが、相当なものになりましたね。