太田の業界の慣習にとらわれない改革の一つが、千葉県の学校に訪問して敢行するフェンシングの体験会だ。いまひとつ盛り上がりに欠けることも多い学校行事だが、彼らの興行は大盛況。毎回、生徒たちの歓声が止まないという。
マイノリティが受け入れられる社会つくりのヒントも、そこにあるのでは? 自身もトランスジェンダーで、15万人を動員した日本最大のLGBTプライドパレードを運営するNPO法人・東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野が聞いた。
これからはスポーツ協会にもビジネスの視点を
杉山:マイノリティへの取り組みとは少々違いますが、フェンシング協会はお子さんへの普及活動を精力的に行っています。
太田:いまは千葉の小中学校を回っていますが、都内の小学校からもお声かけいただいています。東京オリンピックが始まるまでに50校は訪問したいですね。
子どもたちへの指導を勧める理由は、2020年に開催されるオリンピックの主役の一旦を担うのは子どもたちだと思っているんです。柔軟な心をもっている時期に、彼らの感覚に訴えかけるのがオリンピックの大切な役割。
ある程度事前に知識をもっていると、競技観戦を格段に楽しむことができます。そのために全国の学校をめぐって、体験の機会を提供しています。
千葉県でもフェンシングのオリンピック大会は開かれます。自分にコーチしてくれた選手が出場するとなれば、オリンピック会場に観戦しにいく子どももでてくるかもしれません。
とはいえ慈善事業ではないので、千葉県や各市にもお金を出してもらっています。事業として一定のクオリティを提供している自負があるので、そのことを認めてくれた団体から補助金ではなく、ビジネスとして資金提供をいただいています。
オリンピックの来場者が増え、フェンシング協会にもお金が入れば、Win-Winです。こうした機会をなるべくつくるのは協会の使命でもあります。もうワッペンをつけて周知を広めるだけの時代ではありません。
体験会ではなく「応援合戦」なら子どもも盛り上がる
杉山:指導には、オリンピックに出場する選手も参加されているんですよね。
太田:はい。はじめは選手たちもそこまで乗り気ではなかったんです。会長の僕がいるから仕方なくついてきていた。ですが、いまは自主的に参加する人がかなり増えています。僕が行かなくても良いくらいになりました。
選手も含めて取り組みを楽しめるようになった秘密は、体験会ではなく「応援会」の仕組みをつくったからです。
一度に多くの生徒たちにフェンシングの魅力を伝えるには、一人ひとりに時間を割く体験会は向きません。なので、とにかく会場を盛り上げ、選手を応援する楽しさを味わってもらうことにした。
子どもたちが鬼のように叫んで応援してくれるので、選手も気持ちよくパフォーマンスを発揮できる。みんな楽しんでくれています。
杉山:知らない選手が試合をしても、子どもはなかなか大声で応援してくれませんよね。そこまでの盛り上がりをつくるために、何か工夫があるのでしょうか。
太田:最初は子どもたちも声が出ないので、応援のかけ声を教えてから、大人同士のフェンシングを見てもらいます。そのときは勝敗が決まったときに「わー」と歓声があがる程度なのですが、次に前もって頼んでおいたその学校の生徒代表と、大人の選手で戦ってもらうんです。
一回目の試合で応援の仕方は理解した上で、次に学校代表vs.日本代表の構図をつくる。すると、自分たちの仲間を応援しようと盛り上が流ので、一気に声量が上がるんです。
試合後に代表の生徒が「応援されて気持ちが良かった」なんて話せば、もうこっちのものです。ここで応援の楽しさを知ってもらった後で、再度迫力のある大人同士の試合を見てもらうんです。ここで生徒を二つのグループに分けて、「応援合戦だー!」と煽ると、ものすごく盛り上がるんですよ。
杉山:子どもたちが楽しむための流れを、かなり綿密に計算されていますね。