「楽しい人がLGBT」なら子どもも自然に受け入れてくれる
太田:僕らが提供しているのは「非日常」。僕はこの取り組みをスポーツの楽しみを知ることだけではなく、ストレス発散の場としても活用してほしいんです。
道徳の授業のような雰囲気にしないために、僕たちが入場する瞬間から学校の先生にはマイクを任せてもらっています。辛気くさい話やお説教は一切なしで、先生にも「この応援会の間は何があっても子どもたちを怒らないでくださいね」と言っています。
子どもたちにとって大切なのは、面白さです。面白いことを教えてくれれば、それがメダリストかそうでないかも、男性でも女性でも関係ありません。
杉山:僕も子どもたちにフェンシングを指導していた時期がありました。自分の性別をわざわざ話したことはなかったのですが、生徒たちは「杉山コーチは体が女で、心は男なんだよね」と、自然な形で理解していましたね。
子どもたちにとっては僕の性別よりも一緒に楽しくフェンシングをしてくれる人かどうか、ということのほうが大切だった。子どもの柔軟さには、驚かされますね。
太田:僕は子どもたちと接している内に、彼らの「面白い!」のエネルギーで、LGBT当事者や、LGBTに戸惑う子たちに自信をもってもらいたいと考えるようになりました。
例えば、杉山さんに僕らのフェンシング応援会に来てもらって、会話の流れの中でさらっと「このイケメンのお兄さんは実は元々、女子の日本代表選手だったんだよ」と紹介してみるのはどうでしょう?
杉山:いいですね、それ。LGBTの話は、よく性行為の話と混同されてしまいます。それで子どもにはまだ早いと考える親御さんもいますが、本当はアイデンティティの話ですからね。
向き合うのに早すぎるということもないですし、特別なこととして教えるのではなく普段の何気ない会話の中に織り交ぜていくことが自然かつ重要だと思います。
僕の肌感覚でも、「LGBTの人がフェンシングを教える」だと堅苦しく感じてしまいますが、「楽しくフェンシングを教えてくれた人が実はLGBTだった」場合は、すんなりと受け入れることができる。
大げさにしなくても、そういった機会を設けることで、応援団の中にもいるであろうLGBTの当事者の子たちも気持ちが楽になるのではないでしょうか。そうした機会はぜひとも与えたいですね。
太田:いいですね。次回の学校訪問の際に早速取り入れてみましょう。
杉山:是非お願いします。LGBTの子どもたちにとっての大きな課題はロールモデルがいないということなんです。子どもというのは身近なカッコイイ大人に憧れて未来を描くものだと思うのですが、そのカッコイイ大人の中にLGBTであるということをカミングアウトしている大人も、そういったことに肯定的な大人も、今の日本社会ではなかなか見つけることができません。
そのためLGBTの当事者の子どもたちは自己肯定感を持つことが非常に難しいんです。スポーツ選手という、子どもたちの憧れの存在がロールモデルとなれば、社会は大きく変わると思います。
例えばメジャーリーグではチームとしてLGBTの子どもたちに向けた応援メッセージを発信していたり、球団オリジナルのレインボーグッズなども販売していたりします。
太田:アスリートやスポーツ業界を巻き込むような大きな取り組みも、子どもたちにするサラッとしたLGBTを受け入れるという姿勢も、僕は両方大切にしたい。日本のスポーツ業界を進化させるために、出来ることから確実に実践していきたいです。
連載 : LGBTからダイバーシティを考える
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