ビジネス

2018.11.19

NASAも採用 VSeeが拓く「テレヘルス」の未来

ガボンのシュバイツァー病院では、遠隔診療キットを使い、データをリアルタイムで米国のフォロウ助教授と共有し、記録することができる。

「医療システムは根本から変わり、今の形とは似ても似つかぬものになる」NASAが採用したVSeeのミルトン・チェンが語る革命前夜のテレヘルスとは?


NASAの宇宙ステーション。飛行士たちの一日は地上の医師との健康診断で始まる。この「遠隔診療」をサポートしているのがVSeeだ。2013年、米国製の幾多のビデオ通信システムを調査・試験したNASAが唯一合格のお墨付きを与えた。

「品質が認められたのは嬉しかった」とVSee共同創業者でCEOのミルトン・チェン。「遠隔診療用に採用されたけど、あまりに使い勝手が良く画像再生が綺麗だと、家族との通信や地上波のテレビ番組中継にも使われるようになった」。

NASAの技術試験はヒューストン地上局のシミュレーションセンターで2000台のマシンが潰れるまで徹底的に繰り返された。無重力下で、あるいは宇宙線に晒されながらの環境試験に加え、使用中のサテライトが故障したとの設定で瞬時にもう1つのサテライトに切り替える課題などもクリア。「テストは2~3年がかりだった。その間に妊娠・出産して、それでもまだサンノゼとヒューストンを往復していた」と共同創業者のエリカ・チャンは笑って当時を振り返る。

どんな環境にも医療を届ける

VSeeが提供しているのはテレヘルスの基幹となるビデオ通信システムだ。インターネット網でもモバイル・ネットワーク網でも使える。各種診断機器がこのシステムに自由に接続でき、遠隔診療を展開するためのワークフロー支援機能「VSeeクリニック」も利用できる。料金はシンプルなビデオ会議システムは無料。「VSeeクリニック」の使用料は月額1ユーザー199ドルから。ユーザー数は医師数でカウントする。医師1人に一定数のスタッフと患者の無料アカウントがつくれる仕組みだ。

VSeeが優れているのは画像の伝送と再生だ。「レントゲン画像で比べれば一目瞭然。小さな影も再生できる」(ミルトン)。伝送データに合わせてメディアの通信帯域を瞬時に切り替えるなどの最適制御を行い、高精細な画像を速度を落とさずに伝送でき、余分な圧縮をかけずに再生・表示できる。通信状況が不安定な環境でも高精細な映像と通信速度が保てるから、わずかな遅滞が命取りとなる医療現場でも安定して使える。

コンピュータとデジタル診断機器を振動にも水にも強い堅牢な機内持ち込みサイズのスーツケースに詰め合わせた遠隔診療キットも提供する。これさえあれば医師は被災地の救援活動にも無医村の診療にもそのまま出かけられる。ケースを開けばそこがクリニックになるのだ。


VSeeの遠隔診療キット。スーツケースにラップトップやスコープ、デジタル聴診器、超音波診断機などを搭載。開けば世界のどこでもクリニックになる。

ヒラリー・クリントン国務長官(当時)がVSeeを携えてイラクの難民キャンプを訪問したのは10年。イラク政府に採用され、今でも遠隔手術のトレーニングなどに活用されている。

ナイジェリア海底油田の採掘基地では、ロイヤル・ダッチ・シェルが基地と港のクリニックを結んで遠隔診療を実施している。シェルは最も古いクライアントの1つ。VSeeへの評価は高く、ナイジェリア各地の病院に寄付をしてはVSeeを導入している。

先端医療で有名なインドのアポロ病院の標高3000メートルの遠隔診療センターにも採用され、サテライト通信網でヒマラヤ山脈の寒村とセンター、インド国内各地の医師を結んでいる。
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文 = 西村由美子 写真 = ラミン・ラヒミアン 編集 = 成相通子

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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