ビジネス

2018.11.19

NASAも採用 VSeeが拓く「テレヘルス」の未来

ガボンのシュバイツァー病院では、遠隔診療キットを使い、データをリアルタイムで米国のフォロウ助教授と共有し、記録することができる。


創業資金は連邦政府系ファンドから出資を受けた。ヒラリーからイラクへ、NASAへと繋がる縁がここから生まれ、厳しい要求で品質が磨かれた。

次に投資をしてくれたのはセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフだ。マークの著書『クラウド誕生』を読んだミルトンが、「人は助けてくれる。助けが欲しかったらためらわずに頼んでみることだ」という言葉に励まされて、マークに「投資していただけませんか?」とメールしたのがきっかけだ。

驚いたことに24時間以内に返事が来て自宅のランチに招待され、その席で投資が決まった。

ミルトンはアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾスにもメールして1日以内に返事をもらった。ミルトンの戦略は「相手が受け取るメールが一番少ない時間帯に送信すること。狙いは金曜の深夜から土曜の深夜まで」。アドレスは推測して当てた。

セールスフォースというCRM(顧客関係管理)大手と働く機会を得て、社会人経験のなかったミルトンは会社の仕組みやワークフローの重要性を初めて理解したという。医師や医療機関のワークフローを支援する「VSeeクリニック」はここから生まれ、セールスフォースの営業の手を借りて、売り上げを伸ばしている。

テレヘルスがつくる医療の未来

米国ではテレヘルスは遠隔医療よりも広義の概念だ。VSeeはテレヘルスだ。通信技術を使うが必ずしも遠隔ではなく、また医療だけでなく広範囲にウェルネスや健康管理も含む。

テレヘルスで医師は同じ診察室から在宅患者と通院患者をシームレスに診療できるようになる。手術室にいながら気がかりなICUの患者を見守ることができ、看護師に指示も出せる。デジタル診断機器をテレヘルスに接続すれば、医師が診察中に採取するデータも、患者のウェアラブルで採取するデータも共有でき、医師と患者は診察室だけの関係からより継続的な健康管理のパートナーになれる。

医師だけが聞いていた聴診器の心音も、医師だけが見ていた患者の内耳もモニター画面に表示され、共有される。採取データは自動的に記録され、医師は入力作業から解放されて患者と向き合う時間が増え、ケアの質が向上する。最新技術を活用しテレへルスで医療供給体制を変えれば「医療費は半減できる」がミルトンの主張だ。「システムの方が人間よりも圧倒的にコストが安いのだから」。

問題はワークフローだ。ミルトンは人と機械の相互関係の専門家として考えている。ワークフローの変革にテレヘルスがいかに寄り添えるか、人間の行動をいかに変えることができるか、技術はどこからアプローチすればいいか。

ミルトンのビジョンに共感する同業者や提携企業が増え、昨年初めてテレヘルスの未来を考える会議を主催した。数十の企業や医療機関者が集まった。今年は3日連続開催で、70人ものスピーカーが登壇する。

昨年の会議には競合企業も参加させて周囲を驚かせた。ミルトンの意見はこうだ。

「テレヘルスは技術革新の津波だ。医療システムは根本から変わり、今の形とは似ても似つかぬものになるだろう。宇宙ステーションやイラクやガボンの話ではなく、僕らの日常の医師や病院が変わるのだ。どう変えたいか皆で考えなければならない。敵も味方もない。必要なのは皆の英知と経験を寄せ集めて考えることだ。僕らは『人類初』を成し遂げようとしているのだから」

文 = 西村由美子 写真 = ラミン・ラヒミアン 編集 = 成相通子

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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