バビロンがトレーニングを行ったAIは、MRCGPテスト(研修中の一般開業医師が受けるテスト)を受験した。このテストの過去5年間の平均スコアは72%だ。「バビロンのスコアは82%だった」と壇上に立ったMobasher Butt医師が述べると、場内は万雷の拍手に包まれた。AIが人間の医師を上回ったのだ。
バビロンは設立から5年間で総額8500万ドル(約94億円)を投資家から調達している。これまでのところ、同社が開発したAIドクターは現状では規制により医療アドバイスを提供することしかできないが、近い将来には実際の医療現場での活用が認められるかもしれない。
バビロンの創業者であるAli Parsaによると、同社が目指すのは「地球上の全ての人が手軽に医療サービスを受けられるようにする」ことだという。Parsaは、バビロンのようなAIドクターを使うことで医療費を抑え、NHS(英国の国民保険サービス)や保険会社のコストを削減することが可能だと考えている。また、バビロンのチャットボットを使えば不必要な通院を減らすこともできる。
Parsaによると医療コストの3分の2は人件費であり、人間の医師とAIを組み合わせたバビロンの医療アドバイスを導入すれば、診断コストを下げられる。バビロンは、消費者や医療サービス提供者に対して、在宅勤務の医師250人とビデオ通話できるサービスを販売している。このほかにも、ユーザーに医療アドバイスを提供するソフトウェアも提供している。
Parsaは「医師が行うべきなのは診断ではなく治療だ」と語る。27日に行われたデモでは、スクリーンにバビロンの画面が映し出された。めまいがするという女性患者がチャットボットの質問に回答し、最終的には80%の可能性でメニエール病であるという診断が下った。
診断を自動化するAIロボット
このチャットボットの中核をなすのがバビロンの診断エンジンだ。同社のエンジニアは、AIに患者とのやり取りを学習させた結果、MRCGPテストに合格させることに成功した。
その後のデモでは、スクリーン上の女性患者の顔がデジタルな線で覆われた。これは顔認識システムで、医師たちがビデオ通話で患者の表情を分析するために使っている。鼻や唇、眉などにある117の筋肉の動きを分析することで困惑や不安といった患者の感情を把握することができるという。
画面の横に表示されたボックスでは患者の会話内容が自動的にテキスト化され、カテゴリに分類されていた。また、別のボックスには半透明の人体図が示され、内臓や筋肉が表示されていた。これは女性患者の「デジタルツイン(デジタルな双子)」で、膨大な量のシミュレーションを行うことで病気になるリスクの高い箇所を予測することが可能になるという。
さらに別のボックスに映し出された人間の医師が女性にいくつかの質問をすると、「AIの診断に賛成します。あなたはメニエール病を患っていると思われるため、プロクロルペラジンを処方します。処方箋はいつもの薬局に送っておきます」と述べた。
デモが終了するとParsaは壇上に戻り、聴衆の医師たちに診断書を書くのにどれだけの時間を費やすか尋ねた。バビロンのテストを監督したスタンフォード大学プライマリケアと公衆衛生部門の責任者であるMegan Mahoneyは、「業務にあてる時間の50%ほどだ」と答えた。
Parsaが医療サービスの提供者に訴えたかったのはまさにこの点だ。バビロンのサービスを使えば医師は時間を効率的に使うことができ、ゆくゆくは人員削減にもつながる。