合意なきEU離脱で「2、3年は地獄を見る」 英国在住の識者に聞く

EU離脱派の集会に欧州旗を掲げようとする男性(Photo by Matt Cardy/Getty Images)


──イギリス経済にはどのような影響が及んでいるのでしょうか
 
2016年6月23日以降の国民投票以降、ポンドが実効為替レートベースで18%下落しました。それによって2017年のイギリスの貿易赤字が減り、輸出が潤った点はプラス材料だったと思います。
 
一方、マイナス面を見ると、イギリスでは今、企業が新規投資と新規雇用ができない状態に陥っています。
 
国民投票から2年間、こうした新規投資と雇用がほぼ止まっている状態なので、国自体が澱んだぬかるみの中に嵌っているようなものなのです。
 
企業経営者の立場からすると、明日何が起こるかわからない状態で、このままイギリスに拠点を置いていいのかという疑念が消えません。金融であればオランダやドイツ、工場であればポーランドなどの賃金の安い国に拠点を移すべきか、そして3年先、5年先、そして10年先を見据えた時にどうすればいいのかなどを考えなければいけませんが、少なくとも2019年3月まで、動きが封じ込められてしまっています。
 
離脱に向けた合意が近いと報じられた翌日に、白紙に戻るような、日々二転三転する離脱交渉の行方をみても、企業は全く予定を立てられないでいます。
 
──EU離脱が目前になり、イギリス国民はどんな感情を抱えているのでしょうか
 
これは日本人として驚かされたのですが、イギリス人の大半はEU離脱が決定したことに関してあまり異議を唱えないのです。
 
若い世代の中には抗議デモをし、もう一度国民投票を求めている人たちもいますが、残留派だった人も、その多くが国民投票の結果が出た段階で、ぱっと考えを切り替えました。
 
今は、自分たちの生活や経済に出来る限り影響が出ないような形で離脱することを望んでいます。
 
こうした気持ちの切り替えはある意味爽快というか、民主主義を徹底させるという手本を見せてもらったように思えます。
 
──日本経済にはどのような影響が考えられるでしょうか
 
まず、イギリスに拠点を置く日本企業の工場がそのまま維持できるのかどうかが焦点となります。トヨタは合意なき離脱となった場合、イギリスの工場生産を停止する可能性にも言及しています。
 
部品調達や雇用を考えると、すぐに工場を移転するというわけにはいかないので、2019年上半期の計画をどのようにするか見通しが立たない状況に陥っていますし、業績にも確実に影響が出てくると思われます。
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文=久世和彦

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