テクノロジー

2018.11.05 07:00

すぐそこにある「脱肉」という未来──シリコンバレー「ミートテック」最新事情

Impossible Burgerは、米ハンバーガーチェーン「UMAMI BURGER」で人気メニューの一つとなっている(Getty Images)


また重要なのは、カロリーの転換率だけではありません。代替肉は生産に必要な資源の面でも上です。たとえば牛のクリーンミートと、現在の動物ベースの牛肉を比べると、クリーンミートの方は99%少ない土地、96%少ない水、そして45%少ないエネルギーで作ることができます。
advertisement

つまり、代替肉はより少ない資源で、効率的に生産できるのです。そのため今後、規模が拡大していけば、現在の肉よりもはるかに安く提供できるようになるはずです。

現在の世界の食肉市場は1兆ドル規模とされています。人口増加や途上国の所得向上により、2050年には2兆ドルに達するとも予測されています。代替肉は今後、このとてつもなく大きな市場を奪っていくことになるのです。

──PBミートの「Impossible Burger」はすでに全米3000店舗以上のレストランで提供されています。また「Beyond Burger」も約1万店舗の小売店で販売されています。アメリカの一般市民の間では、PBミートの知名度が広がっているのでしょうか?
advertisement

PBミートは本物の肉に対して、いい勝負を仕掛けていますね。

Impossible Burger(Impossible Foods社)は高級レストランだけでなく、今や老舗ファストフードチェーン「White Castle」でも食べられるようになりました。

Beyond Burger(Beyond Meat社)はレストランのほか、「Target」をはじめとする大手スーパーでも販売されています。最もアメリカらしいレストランともいえる「TGIフライデーズ」では、同社史上最速で全米ロールアウトが実現しました。

このようにPBミートの人気は確実に高まっているといえますが、変化は始まったばかりです。PBミートはまだ世界の肉市場の1%以下にすぎません。

一方、乳製品市場に目を向けると、PB商品はすでに10%の市場を獲得しています。豆乳やアーモンドミルク、オート麦ミルク、ライスミルク(米乳)など、いろいろな種類の植物ミルクが出ていますね。PBの乳製品は過去5年間で250%成長するなど、急速に市場が拡大しています。われわれは、これと同じ変化が肉市場でもかならず起きると見ています。

──そんな中でGFIはどんな取り組みを行っているのでしょうか?

われわれGFIは米ワシントンDCに本拠を置くNPOです。健康で人道的で持続可能な食糧システムを構築することを目指し、動物ベースの食肉からPBミートやクリーンミートなど代替肉への移行を推進しています。

具体的には、次の4つのプログラム領域で活動を展開しています。

1. 起業家を発掘する

テクノロジー会議や有名大学で講演を行い、若い人たちにこの分野での起業を呼び掛けています。Beyond MeatやImpossible Foodsのようなスタートアップをもっと生み出すのが目的です。

2. 起業家を支援する

同分野のスタートアップを、事業計画やブランド戦略、投資家へのピッチなどさまざまな面でサポートしています。大型の資金調達で注目されているクリーンミート・スタートアップのMemphis Meatsは、われわれが創業当初から支援してきた企業の成功例です。

3. 大企業とのエンゲージメント

食品企業や流通企業、レストランなどに対して、もっとPB商品を扱ってもらうようにさまざまな働きかけを行っています。

4. 政府への働きかけ

適切な規制を求めてロビー活動を行ったり、研究資金の拠出額を増やしてもらえるような働きかけをしたりしています。

──食肉の未来は今後どう変化していくのでしょうか?

未来がどうなるのか、予測するのは難しいですが、最も可能性が高いシナリオはおそらく次のようなものです。

PBミートが本物の肉の味に近づいて、値段も下がり、簡単に手に入るようになると、動物ベースの肉に取って代わるようになるでしょう。体にいいし、地球環境にもやさしいのだから、当然のなりゆきです。

でも中には「どうしても本物の肉を食べたい」という消費者もいるでしょう。そういう人には、クリーンミートという選択肢があります。クリーンミートは製造方法が異なりますが、あくまで本物の肉です。

PBミートとクリーンミートのどちらが主流となるかはわかりません。「PBミート80%、クリーンミート20%のブレンド肉」といった商品も登場すると思います。そうなると、今度は「植物性のタンパク質が入っているから買わない」という消費者が出てきてもおかしくありません。

そんな未来は想像すると、とてもワクワクしますね。



アイロン・スタインハート◎スタートアップ2社を創業した連続起業家。昨夏から、米NPO「The Good Food Institute」でビジネス・イノベーション・スペシャリストとして活躍している。

文・写真 = 増谷康

タグ:

連載

進化する「食」

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事