ESG投資については以前このコラムでも書かせていただいたが、人権の尊重を含む社会や環境、ガバナンス(企業統治)に配慮した「倫理的投資」の規範を採択する動きは、世界の大手投資機関の間で今や主流となっている。
人権侵害などの「血のマネー」と烙印を押される資金の受け入れは、企業であれ、協業する投資ファンドであれ、ESGの基本姿勢に明らかに違反してしまい、その企業やファンド自体の評価リスクにつながる。
すでにバージングループの創始者リチャード・ブランソン氏は、サウジが投資を決めていたバージングループの宇宙開発プロジェクトを停止した。サウジからの10億ドル、1000億円以上の投資を蹴った格好だ。
ソフトバンクはどうするのだろう。国際社会が注視するなか、サウジマネーとの投資プロジェクトを続けるのか。それとも、サウジからの新規資金受け入れを断って、自己資金だけでベンチャー投資を続けるのか。ファンド解散で投資家への資金返還という究極の策を取るのか、それとも一時的にサウジ資金部分からの投資を凍結するなどのテクニカルな処理で乗り切るのか……。
孫正義会長は、サウジでムハンマド皇太子と面談はしたものの、「砂漠のダボス会議」と称される注目の投資家国際会議は欠席したと報じられた。今後の選択についての孫会長のコメントが待たれる。
ソフトバンクの孫正義会長(Getty Images)
ベンチャー市場のこれまでの盛況ぶり
ところで、近年のソフトバンクの本格的な投資事業回帰の背景には、世界的なベンチャー投資ブームがある。上記NVCAによると、その中心である米国では、昨年の年間投資額840億ドルに対して、今年は6月までの半年だけで570億ドルと加速してきた。リーマンショック後に一時期静まり返っていたベンチャー投資が近年再び盛り上がり、ドットコム・ブーム以来の活況を呈してきたのだ。
そのフィーバーぶりを象徴するのが「ユニコーン」だ。私募であるVCファンディングで10億ドル、日本円で1000億円以上で評価される非公開企業のことを指す。上記、ビジョンファンドも投資をしているウーバーがユニコーンの代表例だ。
しかし、ベンチャー投資をしている企業はソフトバンクだけではない。NVCAによると、昨年は実にベンチャー投資の半分が事業会社による「コーポレートVC(CVC)」だった。日本でもドコモやKDDI、電通、武田製薬の「武田ベンチャー」やトヨタの「AIベンチャーズ」など、あらゆる企業がやっている。
プロダクトサイクルが短くなっている今の時代、破壊的(ディスラプティブ)な新技術に対するリスクヘッジとしてCVC投資を行う企業も多い。
また企業に余剰資金があるのも要因の一つだ。例えばアップルは、6月末時点で投資資産が総資産の半分にあたる2400億ドルに上っており、それを税金の安いネバダ州に「ブレイバーン・キャピタル」という投資会社を作って運用している。日本円で26兆円という世界最大のプライベートファンドだ。ちなみにブレイバーンというのは、りんごの種類。ネーミングはアップルらしい。