秋の北海道の醍醐味、脂ののったシロザケと至極のイクラ

(c)高田サンコ/講談社

「え? このイクラ、普通じゃない……」

ほかほかの白ご飯にこんもりと乗っているそれは、一粒一粒に張りがある。表面は艶やかな光沢を放ち、内部は夕焼けのような朱色が美しく透けている。これは期待せずにいられない! 

口に含むと、ぷつっと勢いよく飛び出る、濃厚なうま味のスープ。ほんのりあまくて、醤油の塩気が後を引いて、手が止まらない。「うわあ、たまらない。どうしてこんなにおいしいの?」

ある年の秋、月刊ヤングマガジンで連載していた「海めし物語」の取材に、北海道標津町(しべつちょう)を訪れました。

秋の北海道と言えばサケ。日本で流通している国産サケのほとんどは北海道産のシロザケ(秋サケ)。秋に産卵のため故郷の川へ帰ってくるサケを漁獲したものです。

ちなみに、そのほか、ギンザケは国産も輸入も養殖が主で、国産のギンザケの旬は5~7月。多くの輸入品は、冷凍品や塩ザケとして通年販売されています。お弁当やお握りの具でおなじみのベニザケは実は日本ではほとんど水揚げされることがなく、天然ものの輸入品。生で食べられるサーモンはタイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)やニジマスのことで、養殖ものの輸入品です。

つまり天然育ちの国産サケを食べられるのが秋、というわけ。天然と言っても日本沿岸で漁獲されるシロザケの大半が、地域の人の手で卵を孵化・放流させたものなんだとか。中でも標津町は日本一のサケの回帰率を有し、全国平均約4%といわれる中、およそ10%ものサケが戻るのだそうです。すごいことです

とはいえ、今や脂がのったおいしいサケは通年食べられるし、目からウロコなんてサケに出会えるのかな? と最初は半信半疑でした。

しかし、取材が始まるなり登場するサケ料理の見事たるや。まず目を引いたのが、サケの半身が豪快にプレートに乗せられた「ちゃんちゃん焼き」。さすが北海道、脂がたっぷりのった肉厚のサケを、どんと乗せたバターと甘辛い味噌味でたっぷりの野菜といただく。シャキシャキ、甘辛、サケがうまい! このうまさは、やっぱり北海道だからなのでしょうか……。

実は標津は地域一体となってHACCP(食品の製造において安全・衛生を確保するための管理手法)を導入。加工工場だけでなく、漁船や港、倉庫や運搬時も衛生的に管理しています。

さらに、漁獲されてすぐの生きているサケを、船上で血抜きして締める“船上一本〆”を行うことで、魚自体の鮮度や色合い、食感を保持。標津のサケは手間をかけられ、とことん品質にこだわっているというわけです。

続いて登場したイクラの乗った丼。サケが衛生的かつ速やかに加工されるわけですから、いくらも当然すばらしい品質。鮮度が抜群に良い卵をすぐに塩や醤油に漬けることがおいしさの秘密だと言います。



ところで、実は、サケの身と卵はおいしさのタイミングが異なります。

サケは3〜5年を海で過ごすと、精巣や卵巣の成熟に伴い川へ向かい、川に近づくと絶食し、体の色や顔の形にも変化が現れます。この絶食は3カ月にも及ぶのだそう。絶食の期間が長いほど身はやせていき、一方で精巣や卵巣は成熟に向かいます。そのため、シーズン始めのサケは「身」の脂ののりがよく美味で、シーズン終わりは「卵」の皮に張りが出て、味わいも濃厚になるのです。

一年中食べている身近なサケ。でも今回、彼らの背景にある壮大な物語に思いをはせることができました。故郷の川を離れ広大な海を生き抜き、パートーナーと巡り合うのは死を目前にした産卵のとき。私もあきらめずに頑張ろう、と我が身を振り返りました。

連載:夢の食べ物
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文=高田サンコ

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