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2018.09.28

AI競争で世界トップを狙うイスラエル、年間140社が誕生

Cosmo Condina / gettyimages

AI競争で中国は米国を追い抜き、欧州も米国や中国に戦いを挑んでいる。そんな中、イスラエルが急速に存在感を増している。イスラエルはデータ分析やソフトウェア、ハードウェア開発の分野で優秀な人材を多く輩出し、有望なスタートアップが数多く誕生している。

アナリストのDaniel Singerによると、イスラエルで機械学習やディープラーニング、コンピュータビジョン、自然言語処理、音声認識などを手掛けるAIスタートアップが2017年に調達した資金は約20億ドル(約2250億円)と前年から70%増加し、今年は既に15億ドルに達しているという。

AI領域では、過去5年間で毎年平均140社が誕生し、現在では950社以上がAIテクノロジーの運用や開発を手掛けているという。

過去5年のAIスタートアップのエグジットバリューは、1ディール当たり平均1億2100万ドルで、エグジットまでに調達した資金の5.6倍となっている。それが今年に入って8.3倍にまで増加している。

大型案件では、インテルによる「モービルアイ(Mobileye)」の買収(153億ドル)や、セールスフォースによる「Datorama」の買収(8億ドル)などがある。

「イスラエルの起業家の多くは軍経験があり、AIや画像処理、データサイエンスなどの実務経験が他国の起業家よりも豊富なのが特徴だ」とUpWest Labsの共同創業者であるShuly Galiliは話す。

「イスラエルはAI人材が豊富だ。特に画像認識や自然言語処理のアプリケーションの分野で豊富だが、その他のAIアプリケーションも同様だ」とエクイティ型クラウドファンディングプラットフォーム「OurCrowd」のシニアアナリストであるSian Goldofskyは話す。

SOurCrowdはイスラエルのAIスタートアップに最も積極的に投資をしており、傘下にはアーリステージのAIスタートアップに特化したファンド「Cognitiv」を持つ。

同社がこれまでに出資をした26社のうち、21社がエグジットしたが、その中には「BriefCam」(機械学習を用いた動画コンテンツ分析)や「Argus Cyber Security」(AIを使ったコネクテッドカー向けセキュリティ)、「Nanorep」(バーチャルチャットボット)などが含まれる。

Singerによると、イスラエルのAIスタートアップの71%がB2B向けアプリケーションを手掛けているという。イスラエル企業はエンタープライズ向けビジネスやインフラ事業の経験が豊富で、特に重工業向けアプリケーションにおいて競争優位性を発揮している。

セクシーでない課題とセクシーな技術

Shuly Galiliは次のように指摘する。「イスラエルの起業家はAI技術を石油やガス、鉱業、製造業、農業などの分野に積極的に活用している。これらの業界はデータのサイロ化が課題だったが、データの活用によってAIの恩恵を最も受けている」

Galiliの考えは、UpWest Labsの投資方針にも反映されている。「我々のミッションは、セクシーでない課題をセクシーな技術で解決する企業に投資することだ。AIで交通事故を防ごうとしているWaycareや、巨大な鉱山施設や製油所の航空写真をAIで処理するAiroboticsなどが良い例だ。イスラエルのAIスタートアップは、工業分野における課題解決に関心を持っている」とGaliliは話す。

イスラエルのこれまでのAIにおける成功や潜在力に惹かれ、工業やコンシューマ、テクノロジーなどの分野の大手企業が研究開発拠点をイスラエルに開設するケースが近年増えている。Singerによると、現在では4000人近くのAI開発者、エンジニア、データサイエンティストがイスラエルで働いており、彼らの平均給与は10万9000〜14万ドルだという。

「イスラエルでは、膨大な数のスタートアップが誕生し、企業がR&D拠点を設立しているために、開発者やAI専門家が不足している」とOurCrowdのGoldofskyは述べている。

編集=上田裕資

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