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2018.09.20

エアビーで「良い文化を長く残す」 デジタルシニアが語る、シェアの価値

「木香庵」の家主、成田聖子


2000年のイギリスで、「ホームシェアは絶対流行る」と確信

Airbnbを始めたのは2013年だけど、最初に「家をシェアする」ことの価値に気づいたのは、たしか2000年頃だったかな。建築士仲間に誘われて訪れた、イギリスで「BnB(ベット&ブレックファースト)」に泊まって、未来の日本にもこれが必要だと感じました。

BnBはイギリスに昔からある、朝食と寝床だけを貸すシンプルな宿泊施設。当時は田舎から都会に人が流入していた上に、サッチャー政権は新しい建物をつくらず、いまある資源をいかそうとしていた。

それで、田舎に1500円くらいで泊まれる施設がたくさんできていたんです。

これは絶対、日本でも必要だと思った。将来、空き家がどんどん増えることはわかっていたし、若者の多くは親の建てた家にそのまま住みたくない。だから、古くからある家をシェアする需要が絶対高くなるはずだと思ったんです。

日本に帰って早速、自宅の一部を貸し出してみることにしました。近くに九州大学があったから、そこの教授さんたちに向けて「下宿」として貸し出した。今、話題の「民泊」の枠組みではなく、当時、下宿法の許可を取り、活用していました。



その活動を続けているうちに、フェイスブックでAirbnbの広告を発見して。連絡したら、すぐに返信が来て、ホストになりました。

Airbnbのホストになってからは外国から、たくさんのゲストが泊まりに来たよ。どうやら各国でAirbnbのホストをやっている人が、ほかのホストの家に泊まる文化があるみたいで。彼らはみんな、長く丁寧なレビューを書いてくれる。

私もうちに泊まってくれたゲストの地域に訪問して、レビューも書きました。そうやってみんながいろんなところに泊まりあうから、同じような活動をしている人とどんどん知り合いになれたんです。

けれどその1年後くらいに、県議会から民泊の活動は違法だと通達された。いまは下宿法の範囲で貸し出しながら、新しい民泊法に沿うよう家を改築しています。建築と保険と消防、3つの課をたらい回しにさせられていて、この前はちょうど、建築基準をクリアするために壁面積を全て計算したところです(笑)。

いまは耐震基準をクリアするために、屋根を軽くして、家にかかる荷重を減らさなければならないといわれて、悩んでいるところ。この家は昔に建った家だから、大黒柱を真ん中に立てて、上から重い屋根で杭をグッと押さえつけることで安定させているんです。

そもそも布を基礎にして軽くしようとする今の建築基準法とは、考え方が違うんですよね。

時間も場所も、共有すれば長く続いていく

私はまたAirbnbを再開しようと努力しているけど、もっとたくさんの人が家を貸し出せばいい。それで近所のホスト同士がネットワークをつくって、観光マップとかを発行すれば、地域全体も盛り上がっていくと思います。

それでいろんな地域に関心をもって、自分でも泊まってみる。



いま、木香庵は「吉蔵」という和菓子屋さんと共同で運営しています。昼は和菓子屋、夜は旅館というイメージですね。時間も場所も、分割して経営しているから、長く続けられる。全部私がやるとなると、疲れちゃうからね。

これからは、ますます空き家が増える。きっと、都会と田舎で拠点を2つ持つ人も増えていくはずです。イギリスではすでにそうなっています。

いまはそれを見据えて、日曜大工の教室なんかもはじめています。自分で空き家を整備できれば、簡単にいろんなところに住めるでしょ?

そうやってたくさんの人が木香庵に泊まって、丁寧につくられた住宅の良さを知ってくれるといいですね。いまのお家はすぐに完成するけど、1世代だけで暮らすようにできている。そうじゃなくて、1つの家をいろんな人と一緒に、長く使っていく暮らしもあるんだと知ってもらいたい。お金儲けのためにAirbnbで家を貸している人もたくさんいるけど、私の周りにはそういう思いでホストをやっている人が多いですね。

仏教では、人々が奪い合いを始めたら、絶対に資源が足りなくなると説かれている。良いものを細く、長く、みんなで使っていく。そうやってみんなでその価値を共有できるといい。家をシェアすることの意味は、そういうところにあるんじゃないかな。

文=野口直希 写真=小田駿一

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