ビジネス

2018.09.10

元ひきこもりがつくった、バーチャル時代の新たなインフラ #30UNDER30

クラスター創業者兼CEO 加藤直人


VRはハレを豊かにするテクノロジー

──VTuberがここまでヒットすると予想していましたか?

いずれはくると思っていましたが、いつ流行るかはわかりませんでしたね。僕らが考えているのは、バーチャルタレントを商業的に成り立たせる方法です。いつかは彼らが活動するためのデジタルな商業スペースが必要になるとわかっていた。クラスターはブームが来る前からそのための準備を進めていました。

ユーチューブをはじめ、動画配信をベースとしたバーチャルアイドルが活動できる場所はたくさんあるしどんどん増えてきていますが、clusterはファンとタレントが直接接点をもてる場所。ブルーレイでライブを観るのではなく、会場に直に参加できます。

──SMEと提携したバーチャルライブ会場「Zepp VR」も運営していますね。

VR空間は物理的なスペースを使わないので、理論上、入場人数に制限がないのがいいですね。いまはまだ通信量やグラフィック処理の関係で5000人程度しか入れることができませんが、将来的にはもっと大きな規模で開催できるようになる。

例えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんなど実際のアーティストにも、Zepp VRでライブをやってほしい。現実のライブ演出は、ここ20年ほど大きな変化がありません。プロジェクションマッピングやドローンでの空撮などテクノロジーの応用は部分的にはありますが、VR空間ならもっと派手な、現実ではありえないような演出ができる。会場の景色すべてが一気に変わったり、参加者全員が空を飛んだりもできるわけです。

──VRには想像以上の可能性がありますね。

VRでお金を払われるジャンルは、「ゲーム・イベント・エロ」だと思っています。つまり、非日常=ハレですね。現実を上書きするAR(拡張現実)は日常(=ケ)を豊かにして、特定の時に没入するVRは非日常のあり方を変えてくれる。最低限の生活を送るのがますます簡単になっている現在、人々はますます日常では味わえない体験に熱中するようになる。

イベントは、参加費としてのチケットはもちろんですが、ライブで花火を打ち上げるアイテムなどのオプションも人気が出ると思っています。僕もライブでは普段買わないような5000円のグッズや、1500円のサイリウムを買ってしまう。イベントは非日常だからこそ、もっともっとそれを盛り上げるものを提供したい。

20世紀はモビリティの時代と言われましたが、21世紀はバーチャリティの時代だと未来の教科書に書かれるようになるはず。まだまだclusterも未熟で、サーバーが落ちることもありますが、大きな挑戦をし続けているからこそユーザーのみなさんは暖かく「がんばれ!」と応援してくれます。それを励みに、エンタメのハコ、さらにはバーチャル世界のインフラを担う存在になりたいですね。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Business Entrepreneurs」カテゴリーで選出された、クラスターの加藤直人以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。



加藤直人◎大阪生まれ。京都大学理学部にて宇宙論と量子物性論を研究。同大学院中退後、スマホゲーム開発・受託や技術本の執筆をしながら約3年間のひきこもり生活を過ごした。その際出会ったVRデバイス(Oculus Rift Development Kit)に感銘を受け、個人開発に勤しむ。 2015年夏に起業。2017年、アバターを用いてVR上で数千人規模のイベントを開催することのできるプラットフォーム「cluster」の正式版を公開。

文=野口直希 写真=小田駿一

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