──お店はあくまで自然体で、メッセージやコンセプトが強く出ている感じはしませんね。
僕はメッセージやコンセプトがドライブしているお店は、あまり好きじゃなくて。「このコーヒーはオーガニックです」とか「サステナブルな素材で作ってます」とか強く打ち出しているお店って、いまいち信用できない。僕が一番信用したいのは、「美味しい」ということ。このお店でいうと、美味しいパンと美味しいコーヒー、美味しい料理がある、それがすべてです。
「これはフェアトレードです、オーガニックです、良いものなんです」と言われて、いざ食べてみると美味しくない……ってこと、よくありませんか? それは一番良くない。そういうことがあると、消費者は“フェアトレードやオーガニック、サステナブルな素材=美味しくない”という認識になってしまいます。
そういうものを選択するのがいいことだ、というイデオロギーも大事かもしれませんが、コアにあるべきは、「美味しい」ってことだと思うんですよ。
店内の一角には、生江氏が尊敬する料理人 アリス・ウォータース氏の著書がさり気なく置いてある。
──サステナブルな食材というのは、実際は美味しいものなんですか。
アリス・ウォータースさんという、僕が尊敬している女性料理人(米国バークレーにあるレストラン「Chez Panisse」のオーナーシェフで、オーガニックカルチャーを世界に普及させた立役者)がいるんです。
以前話をした時、彼女は「オーガニックだとか、サステナビリティっていう話をよくしているけれど、それがなぜかっていうと、そういう素材を使うと美味しいものができるから。私は結局、美味しいもの探していた時に、オーガニックに出会い、美味しいものを長く続けていきたいがゆえに、サステナビリティを考えるようになった」と言っていました。
僕もまったく同じことを考えていたので、その時にやっぱり「美味しい」という軸は絶対にブレてはいけない、と確信しました。いくら社会的に意義のあることでも、人々の喜びに直結する形で落とし込まないと、ある時に嫌になって捨ててしまうと思うんです。だからそうならないように、「美味しい」ということを追求するべきだなと。
──「美味しい」を追求するために、意識していることはありますか。
例えば料理で使わせていただく素材は、その先にいる人を想像できる、実際に会ったことがある、同じ想いを持って話ができる、ということをベースに選びます。スーパーの陳列棚からカゴに入れて終わりとか、市場で新鮮なものを買ってくる、ということではなくて、どういう人が作ったのかを分かったうえで、それを自然に感じながら料理を作りたいと考えています。
ブリコラージュのパンに使用している小麦も、北海道の小麦農家さんを訪ねて、さまざまなディスカッションを重ねた上で、ご縁をいただいています。生産地を訪れてそこの空気を知る、というのも大切にしていることの一つですね。
──生産者さんを訪れるシェフは多いと思いますが、生江さんはそれを徹底されていますよね。
それこそ海外の遠方のワイナリー以外は、すべて足を運んでいます。それもただ生産者さんに会って話をするだけではなく、生産のプロセスまでしっかりと見聞きして、学んできます。
ブリコラージュの人気メニュー「アリスの卵のオープンサンド」に使用している卵も、それを産み落とした鶏がどのように生まれ、どんな餌を食べ、どのような環境で育てられているか、すべて見てきています。それこそ、鶏が食べる餌も食べてきました(笑)。
季節により具材のかわるオープンサンド。こちらは「アリスの卵、群馬県産金糸瓜、ベーコンのカルボナーラ風」。
人間が食べても大丈夫なくらい安心できる餌を鶏に食べさせている、そういう思いやりのある農家さんから卵をいただいている。もちろんそのことをお店で謳ってはいませんが、その絶対的な安心感をベースにした料理を提供している、というのは大きいと思います。