レフェルヴェソンス。圧倒的な独創性でミシュランの星や世界のベストレストランなどに輝くファインダイニングだ。
その名店を率いるのが生江史伸シェフ。手がける料理には、思想や知性、優しさ、思いやり、文化までこもった総合的な「美味しい」が宿り、人々の五感に語りかける。また、環境に配慮した社会的な活動も世界から評価されており、2018年にはアジアのサステナブル・レストラン賞を獲得した。そんな生江氏が6月、六本木に新店「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」をオープンさせた。
この新店は、レフェルヴェソンスとはうってかわり、パンとコーヒーを中心としたカジュアルなオールデイダイニング。意外ともいえるこの展開には、一体どのような意図があるのだろうか。そこには食を通じて、少しでも社会が良い方向へ向かえば、と願う生江氏の想いがあった。
──ダイニングであり、ベーカリーであり、カフェでもある。いろいろな楽しみ方ができる新店は、六本木のイメージをガラリと変えてしまいそうですね。
六本木と言えば、夜のネオンやビル群のイメージが強いですよね。インターナショナルで魅力的な街ではありますが、どこか地に足がついてないような雰囲気もある。そんな街と、僕たちが今までやってきた「美味しいものを主題として、喜びを創造していく」ということをコネクトさせるのは、非常に難しいと感じていました。
でも逆に言えば、そういう街だからこそやりがいがあるのでは、と考えたんです。この場所で、自分たちが今まで積み重ねてきたものを良い形で表現できれば、それは何かの証になるかもしれないと。
料理やプレゼンテーション、サステナビリティを意識した「食の体験」って、本来は田舎の一軒家を改装したようなレストランで、その土地のものを使って表現した方がいいんじゃないかとも思います。思想としては美しいし、僕もそういうお店が好きです。でも東京のど真ん中で展開する価値もあるかなと思いました。
──生江さんが考える東京の価値って、どういうものなんでしょうか。
たくさんの人たちが集まっていて、いろいろな情報が一瞬のうちに共有され、何かが動き出すと、ものすごく強いうねりになっていく。発電所みたいなところですよね。もし僕たちが、そのエネルギーをポジティブなものに変えられるのであれば、その波及力は大きい。それこそ、社会を動かすまでの力になる可能性もある。
まだ僕に力があり余っているうちに、この都会のど真ん中で、さまざまなものを繋げながら発信する、ということをやりたいと思いました。
カチッと決められたレシピはなく、その日に手に入った素材をもとに、シェフの裁量で料理が仕上げられていく。