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2018.08.28 07:30

現役東大女子が挑む、スマホ世代のコスメ市場 #30UNDER30


日本はスタートアップにとって障壁が少ない
 
──ちょうど2017年の10月末に7600万円の資金調達を発表し、2018年5月にはロゴデザインとUIのリニューアルを図っていますね。
 
それまでは私がエンジニアとして開発に携わる傍ら、デザインも担当してたんですけど検証用の最低限のデザインで進めていたので、デザインにもっとコストをかければ絶対に良くなる、という確信があったんです。
 
ユーザーインタビューでも、比較的20代前半までは「かわいい」と好評だったんですけど、20代後半になると「子どもっぽく思われる」という意見もあって。確かに若年層からは圧倒的に支持されているものの、やはりこれから20代後半や30代、それ以上の年齢層も取りこんでいきたい。


(左)リニューアル前 (右)リニューアル後

それでロゴとUI/UX、それぞれ外部のデザイナーを起用して、リニューアルに踏み切りました。
 
──リニューアル後の反応はいかがですか?
 
他の企業のリニューアル例を見ても、やはり「ずっと見慣れたものを変える」って難しいんですよね。既存のユーザーさんを中心に抵抗感があって、「前のほうがよかった」なんて言われたりする。
 
でも、私たちの場合はまさに狙い通りだったというか、「大人っぽくなった」「洗練された」といった意見をいただいて、中には「これまで見たロゴリニューアルの中でいちばんよかった」とありがたい意見もあって。不安でしたけど、ホッとしましたね。
 
──これから「LIPS」をどのようにスケールさせていきたいと思っていますか?
 
まずは、国内でNo.1のコスメプラットフォームに育てていきたいです。というのと、ユーザー層を広げていきたい、という感じです。
 
だんだん、「LIPS」の中でもインフルエンサーと呼べるようなユーザーが育ってきているのですが、そういった方がネット上の他のプラットフォームでも活躍していけるような仕組みを作っていきたいと思っています。
 
「LIPS」として、やりたいことはたくさんあるんですよね。ライブ配信ができるようにするとか、ユーザーさんが好きなコスメを自由に紹介するだけで報酬が得られる仕組みづくりとか...。熱量が増えるような設計をして、可愛くなりたいと思っているすべての女性をエンパワーメントするようなプラットフォームにしていきたい。
 
そこで、「コスメのレビューが仕事になった」とか、「ファンとのつながりが生まれた」とか、ユーザー同士の交流が活発になって、その中で何かが生まれることを期待しています。
 
組織もサービスも時間をかけて、ちゃんと同じ方向を向いて歩いていけるように、整えていかなくてはならない。
 
いまはまだ12名ほどの規模なので、私や代表の価値観を理解して、共感してくれる人にメンバーになってもらっていますけど、もっと人数が増えていけば、マネジメントにより多くのリソースを割くことがもう少し必要になるでしょうね。私の場合、これまではプロダクトづくりに集中してきたので、マネジメントについては少しずつ学んでいけたらいいなと思います。
 
海外展開についても、いずれ実現させたいですね。コスメは国が違うとプロダクトも違うので、そのまま「LIPS」を海外でも展開できるかどうかはわかりませんが、いつか海外でも通用するサービスを作りたいと考えています。
 
──スタートアップの経営者は、世界を見据えた大きなビジョンを掲げる方も多いですが、松井さんは比較的堅実な考え方をされている気がします。
 
確かに、リアリストではあるかもしれません。起業してから「サービスを作ったものの、全然使ってもらえない」みたいな経験もあったから、「サービスで語るしか方法がないよね、俺らは」って、深澤ともよく話してます。
 
「こういう社会がいいよね」というのはなんとなくあるんですけど、今はとにかく、プロダクトと数字で語れるようになりたい。そんな気持ちなんです。
 
―松井さんご自身は、海外生活も長かったということで、海外でキャリアを築くことを考えたこともあるのではないでしょうか?
 
7歳から18歳までアメリカで過ごして、だからこそ日本にアイデンティティを持つようになったと思います。結構「日本なんて」と考える人も多いけど、私からすると、日本にいて困ることは特にないんですよね。
 
アメリカではそもそも「アジア人」というバイアスを持たれるし、しかも「女性」で「若い」っていうのは、不利にしか働かない。うちの親ですら、車を買おうとしたときに「お金持っているの?」みたいな感じで、ぞんざいに扱われたこともあるんです。
 
起業して、これからビジネスをやっていくには、障壁はなるべく少ないほうがいいじゃないですか。そう考えると、アメリカや中国と比べて、日本は圧倒的にスタートアップを起業する人が少ないから競合も少ないし、一方でスタートアップを支援しようとするエコシステムも整ってきている。
 
20年前だったら大変だったかもしれないけど、今は私たちみたいなスタートアップにとっては、めちゃくちゃ恵まれた環境だと思います。わざわざ難しい環境で戦うよりは、ちゃんとみんなに使ってもらえるようなサービスを、まずは日本で提供していきたいなと思います。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Business Entrepreneurs」カテゴリーで選出された、AppBrewの松井友里以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。



松井友里◎1994年東京生まれ。東京大学教養学部を休学、2016年2月に株式会社AppBrewを共同創業し、複数回ピボット後、2017年1月にコスメのコミュニティアプリ「LIPS」をリリースし、現在120万ダウンロードを突破。プロダクト開発全般を担当。

文=大矢幸世 写真=小田駿一

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