新技術の使用が拡大することで必然的に伴う人権問題への対処という面で、マイクロソフト、特にスミスはテクノロジー業界をリードしてきた。スミスが指摘する通り、新たなテクノロジーは世の中の役に立つことが多いが、不正利用されて大きな損害を生む可能性もある。
こうした新しいテクノロジーは既に人々の生活の一部となっており、将来的にもこれまで以上に大きな役割を果たすだろう。スミスが焦点を当てたのは、顔認証テクノロジーのガバナンス(統治)に関する難題だ。急速な進化を遂げる顔認証テクノロジー分野では、国や企業がより大きな責任を負う新たなモデルが必要とされている。
スミスはブログで、国による関与と監視を強化する必要性を強調。国家が適切な法規制を整備し、プライバシー保護、偏向への対処、顔認証などのテクノロジーの悪用防止に努めるべきだと指摘した。
しかし忘れてはいけないのは、国家自体が安全保障や法執行などの分野でそうしたテクノロジーを悪用することが多いということだ。スミスは、政治的分極化が進む米国において、行動計画の立案を支援し正当な提言を行う専門家の独立委員会を立ち上げる必要性を説いている。こうした独立専門家の関与は、万能薬とはならずも、特に重要なものになるだろう。
マイクロソフトは、テクノロジー企業による取り組み強化の必要性も認めている。スミスはひとつの例として、現行テクノロジーでは女性や有色人種よりも白人男性を正確に見分けられるという偏向があることを挙げている。これは、こうした技術の開発者の大半が白人男性という事実を反映している。スミスの指摘する通り、企業にはそのような偏向を正すため、自らが仕えるコミュニティーを反映する従業員を雇用し多様性を強化する義務がある。
スミスが踏み込むべきだった問題
しかしスミスが踏み込み不足だったのは、顔認証テクノロジーに絡む人権問題への対処という面で、マイクロソフトのような企業が個々、そして業界全体で取るべき対策についてだ。このような問題では、企業側が人権の原理に則した明確な業界標準や指標を作るべきだ。大志に基づいた大まかな原則に従っていると言うだけでは不十分で、他の主要ステークホルダーとの交渉を経て具体的な業界標準を作らねばならない。
そうした業界標準は、法執行や国家安全保障の名の下に国が行う身勝手な行為に対する保護やプライバシーに関する国際的人権規範に基づくべきだ。標準や指標、さらにそれらを遵守しようとする企業努力には、透明性が必要だ。さらに重要なのは、これら活動は全て、独立した評価と説明責任を伴うべきということだ。
マイクロソフトが、顔認証テクノロジーの規制方法についての議論を率先したことは、称賛されるべきだ。同社やその競合企業は次に、業界標準を定めるという困難な作業に取りかからねばならない。さらに国も、顔認証テクノロジーの正しい使用を保証するための責任を果たすべきだ。