それに加えて、ネバダ州に住めば、カリフォルニア州とは異なり、個人や法人の所得税がないので、さらに可処分所得が増える。強烈な観光収入依存型社会なので、セールスタックス(日本の消費税)の3分の1以上を観光客が払ってくれているという、税収構造の恩恵も無視できない。
もちろん現実には、子供の学校や親の介護などいろいろな問題があり、誰でもが簡単にラスベガスに引っ越せるわけではない。しかし、20世紀の初頭に25人しかいなかった定住人口はいまや200万人に膨れ上がり、日本で言えば政令指定都市の仲間入りだ。
人種差別と無縁の街?
ところで、移住のしやすさに、4つ目の理由があるとすると、それは、差別問題と密接に関わっている。この人工の街は、この地で生まれた人は全体の1割しかおらず、その意味で、この数年、人種差別問題で暴動が起きたメリーランド州やミズーリ州のように、19世紀から引きずっている根深い人種間対立がない。
筆者のラスベガス生活は22年目を迎えているが、長くこの街に住むどんな日本人からも、差別を受けたという話は聞かない。筆者を含め、例外なくみんなある種の覚悟を持ってアメリカに渡ってきて、普段から周囲に対し深くアンテナを立てて暮らしているはずなのに、この街では人種差別がない。
人間のさまざまな差別感情は、土地と土地にまつわる歴史と密着に結びついている。この100年で砂漠の上につくられ、人工の街だとさんざん悪口を言われてきたラスベガスだが、歴史がなく人工的であるがゆえに、人種差別の感情は希薄だ。
全米の、人口で上位の60都市をすべて歩いた筆者の経験からしても、もし日本人がアメリカに移住するなら、上記のすべての理由においてラスベガス以上に住みやすい都市はアメリカにない。ナンバーワンだ! そう断じて、異論を待ちたい。
余談だが、筆者が実際に会ったラスベガスのセレブのなかで、もっとも上品で紳士的だったのはマイク・タイソンだ。サングラスもせず、そのへんの店にぷらっと現れる。握手を求められると、両手で応じる姿が印象的だった。