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Airbnb創業者でCSOのネイサン・ブレチャージク

シェアリングエコノミーの代表格、エアビーアンドビー(Airbnb)は発足から10年足らずで、旅費を節約したい新しもの好きだけが使うニッチな存在から、老若男女が使うメインストリームの旅行サービスへの見事な転換を遂げた。

それでもなお、Airbnbがら“らしさ”が消えないのはなぜか。創業者であり、CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)であるネイサン・ブレチャージクに聞いた。

ホテルの代わりに一般の人の家に泊まるという旅のスタイルを一般に広めたAirbnbはしばしば、観光業界を揺るがす「破壊者」と形容される。しかし、創業者の一人であり、同社のCSOを務めるネイサン・ブレチャージクの捉え方は、そうした世間の見方と少し異なる。

「消費者に異なる商品の間で選択肢を与えることには、マーケット自体を広げる潜在力がある」

宿代を抑えて長期滞在をする。街の中心地ではなく住宅地に泊まる。そういった選択肢が増えることによって、パイを奪い合うのではなく、広げることができると考えている。

「私自身もサンフランシスコの住宅地でホストをしているのですが、ゲストのうち3人に1人は、その地域に住む娘や息子を訪ねてくる親です。家族の家から遠く離れた高いホテルを利用するか、リビングのソファーに寝るかの二択だった所に、第三の選択肢を与える。イノベーションによって市場を広げるとはそういうことです」

ホテルに泊まり、観光名所を巡るだけが旅行ではない。Airbnbはこう提唱し、旅行の概念を拡張することによって唯一無二の地位を築き上げた。彼らの理念がどれだけ利用者に刺さったかは、創業から10年足らずで世界191カ国に500万の空き部屋のネットワークを築き、チェックイン数は累計3億回以上という数字が物語っている。彼らはどのようにして潜在的な利用者を見出してきたのか。

どんなときも「使命」から始める

「我々が日々行なっているのは『使命』をサービスに落とし込む翻訳作業です。すでに存在するものと一線を画すサービスは、その試行錯誤のプロセスを経て生まれます」

ブレチャージク曰く、Airbnbのプロジェクトは、とにかく「使命ファースト」だ。一言で「ビロンギング」とも言い表されることもあるAirbnbの使命とは、「どこにでも居場所がある世界を作る」ということ。世界中のホストの部屋を模した自社オフィスの内装からサービスの開発まで、活動の起点には必ず「どうすれば居場所を作れるか」という自問がある。

昨年開始した体験コーディネートサービス「エクスペリエンス(体験)」の開発過程が好例だ。このサービスは、ホストが得意分野を生かして地元でのアクティビティやワークショップを企画・提供し、旅行者をもてなすというもの。発足のきっかけには、実は旅行者の多くが旅先での経験に「居場所」を見出せていないのではないか、という問題意識があった。

「実際に旅行者を観察してみると、Airbnbを使って宿泊をする人もそうでない人も、旅先では基本的にアウトサイダーでした。そこで、彼らがインサイダーであると感じ、居場所を見つけるためにはどのようなプロダクトが必要か、と考えることからスタートしたのです」

結果的に「体験コーディネート」という新領域に踏み出したが、もしも使命に立ち返ることなく、新事業ありきのプロセスをたどったならば、サービスの最終形態は全く違うものになっていただろうとブレチャージクは言う。

「市場を取りに行くことだけを考えたら、バスツアーなどのマスツーリズムに手を出していたでしょう。従来の旅行会社のサービスと変わりばえ映えがしませんが、ずっと手軽です。しかしそれでは他と差別化ができません。どうすれば使命を実行できるかの問いかけが、サービス開発のインスピレーションになっています」

文=水口万里 写真=野口彈

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