しかし、彼らの自宅でより踏み込んだ会話を続けていくと、本当は連絡をとりたくないのではなく、世代間で日常的に使うコミュニケーションツールが異なり(彼らは電話、子ども達はLINEやメールなど)、相手の邪魔にならない連絡手段が存在しないために、双方が罪悪感を感じていることがわかった。
相手の言葉の背景にあるものを理解すると、これからデザインするものを使ってもらいたいユーザーへの共感が深まり、見落としていた機会に気づくことができる。
また、デザインリサーチでは、マーケットセグメント内の平均的な人々ではなく、エクストリーム・ユーザー(極端な行動を取っている人々)に話を聞くことも重要だと考える。彼らの価値観や行動、状況を観察することは、未来のメインストリームについて考えるためのインスピレーションを与えてくれる。多くの場合、彼らの独特なニーズはまだ満たされていないので、より明確に欲求を言語化してくれるのだ。
たとえば、新たなキッチンツールをデザインするプロジェクトでは、私たちはリサーチの対象に、平均的な主婦ではなく、5歳児と高齢者を選んだ。手先が器用ではなく、細かい動きや指先に力を入れるのも困難な彼らに、様々な調理器具を使ってもらい、その様子を観察することで全ての人にとって使いやすい道具をデザインすることができた。
競合他社より、異業種から
新たな商品やサービスについて考えるとき、多くの場合、同業界の競合他社に目を向けるかもしれない。私たちは、あえてクライアントの属する業界や、目の前のテーマから離れて、異なるフィールドにおける似たような事例からインスピレーションを得たり、新たな視点を学んだりする。
先ほどの「シニア世代のデジタルな経験」を考えるケースでは、「物理的なツールにこだわった幼児教育」を観察した。私たちが訪れたモンテッソーリ教育を行うある幼稚園では、様々な道具を用いて五感を磨くことを重視しており、園長によると、「こうした道具で五感を刺激することで、子どもたちの脳が形成される」という。
これを聞いて、私たちは先に話を聞いたシニアの人々が一様に、認知症や脳の衰えを恐れていたことを思い出した。私たちはこの気づきによって、シニア世代のデジタル体験をデザインする上で、「物理的な操作を行うこと」を最優先事項とするようになった。
ちなみに、私たちは決して定量調査をやらないわけではない。
フローとしては、新たな機会領域を模索したり、新たなアイデアのインスピレーションとなるものを探したりしているフェーズで個にフォーカスし、その次の段階で、スケッチ、簡単なプロトタイプ、物語や動画などにより、アイデアをある程度形にしていく。
それをもとに引き続きリサーチを進め、アイデアを磨き続ける。そして、オンライン調査を通して定量的な観点からデザイン要素を詰めたり、市場のポテンシャルを探る。最終的に、アイデアとその構成要素が具体的に固まったところで、市場参入を踏まえた検証のためのマーケットリサーチを行うのだ。
後編では、読者の方にもすぐ実践していただける、新たなアイデアを考えるためのインスピレーション探しのコツを、いくつかご紹介したい。