ビジネス

2018.06.29 08:00

人間中心のイノベーションを生み出す「デザインリサーチ」とは




シニア世代向けのテクノロジー活用について考えるプロジェクトでは、「シニア世代を助ける、デジタル機器を使った新たなサービスはどうあるべきか?」という問いから始まった。

しかし、リサーチの結果、この問いは、シニア世代が我々と同様に忙しい日々を送り、マルチタスクや緊急性の高い用事をこなしているであろう、という前提のもとに立てられていたことに気付いた。

アクティブなシニアは、むしろゆったりと、注意深く、急ぎの用事はあまり抱えずに、一つのことに集中する生活を送っている。彼らのカレンダーの予定は、だいたい1日1つ。それを忘れてしまったところで大きな問題にはならない。また、「新しいテクノロジーは使いこなせない」という先入観を持っている。そこで我々は新たな3つの問いを立てた。

1. どうしたら家庭にある使い慣れたアイテムと同じように、テクノロジーを簡単に扱えるものにできるだろうか
2. どうしたら今の日々のルーティーンにはない、健康的な習慣を促せるだろうか
3. どうしたら離れた家族との関係をより深めることができるだろうか

このように、新たな気づきを得るごとに問い自体を見直し、磨き上げていくことで、より本質的なアイデアが生まれるようになる。振り出しに戻るようで抵抗を感じるかもしれないが、これもより良いアイデアに辿り着くための一過程にすぎない。こうした、曖昧ですぐに解が出ない状況を許容するマインドセットを持つことも、デザインリサーチを成功させる上では欠かせない。

体を使ってユーザーに共感する

私たちはデザインリサーチを最大限効果的に行うため、オフィスの外に出て、ユーザーと時間を過ごし、思い切って馴染みのないことにも挑戦する。自分たちの課題の世界に主体的に没入し、直感的にユーザーの体験を理解し、共感することが目的だ。

あるモビリティに関するプロジェクトでは、クライアントの男性陣に、5キロの米袋をベビーカーに乗せて街中を歩き回ってもらい、駅のエレベーターを探すことがどれだけ大変かを体験してもらった。また、医療機器のイノベーションを考えるプロジェクトでは、呼吸器に障害のある患者の体験を理解するため、クライアントを連れてスキューバダイビングに出かけた。酸素が限られているとはどういうことかを、体感するためだ。



こうした試みは、様々な部門からなるクライアント側のプロジェクトメンバーや、ステークホルダーが体験を共有し、共通言語を持つきっかけともなり、イノベーションを実現するまでに立ちはだかる数々のハードルを乗り越える原動力になる。

個に着目し、極端な事例から学ぶ

多数の被験者を対象とするオンライン調査や、特定のグループへのインタビューは、人が「何を」「どのようにして」やったかを理解するのに役立つ。だが、その人が「なぜ」その意思決定をしたのか、コンテクストを掘り下げて深く理解するためには、その人が自然体でいられる環境で、個人的に話を聞く方が有効だ。

たとえば、冒頭のシニア世代をターゲットにしたリサーチでは、高齢者の家族とのコミュニケーションについて理解するため、いくつかの家庭で話を聞いた。

「お子さんたちにどのくらいの頻度で電話をかけますか?」と問いかけると、例外なく「面倒をかけたくないので、ほとんどしません」と返ってきた。オンライン調査であれば、回答はここまでしか得られなかったかもしれない。
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文=アメリア・ジュール(IDEO Tokyo デザインリサーチ・リード)

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