スズキの特別プロジェクト公募に自ら志願し、選抜された3名はデザイン思考のフレームワークに沿って、街頭インタビューを敢行。その結果をもとに、開発を進めていくこととなった。(奮闘記前編はこちら)
ここで一度、デザイン思考について触れておきたい。
デザイン思考のプロセスは下記の5つのステップで構成。それぞれのステップを超高速で行ったり来たりしながら、何度も繰り返していく。
デザイン思考に必要な5つのステップ
1. 共感
ユーザーの感情、考え、態度を能動的に擬似体験し、彼らに共感する
2. 問題定義
共感の結果、ユーザー本人も気づいていない価値観を推測し、問題の本質を定義する
3. 発想
特定した問題に対して、多種多様な解決策を発想した上で、最後に取捨選択を行う
4. 試作
数時間程度で荒削りな試作品を作り、机上の空論ではなく、手に取ってみる
5. 確認
試作品をユーザーに試してもらい、フィードバックを得て、ステップ1〜4のどこかに戻る
「問い」を違うアングルで捉えた時、独創的な「答え」が生まれる
これまでの開発手法とデザイン思考はどこが違うのか?
端的に言えば、デザイン思考の共感と問題定義のプロセスのコツは、今までにないアングルで「問いを作る」ことにある。
これまでの開発手法では、「問い」に対して疑いの目を向けることはなく、「(正しい)答え」、つまりソリューションの開発だけに終始していた。全員が同じ「問い」を解こうとするとき、それぞれの「答え」は限りなく同質になってしまう。
しかし、デザイン思考では、いままで誰も考えたことのないアングルから「問い」を設定することで、今まで誰も考え得なかったような「答え」を導き出すことができる。
ユーザーに真に共感できたとき、人は変わる
浜松からやってきたスズキの社員3名が取り組んだ、次世代モビリティのターゲットユーザーは高齢者だった。つまり、電動車椅子に変わる次世代モビリティの開発に主眼が置かれていた。
そのため、デザイン思考のスキルを我々から学んだ若手3人は、車椅子や電動車椅子に乗る高齢者を探してインタビューを敢行。最初は気乗りしなかった3人だったが、実際にやってみると、意外と気前よくインタビューに応じてくれる高齢者がいた。その事実が彼らを救ってくれた。
デザイン思考でのインタビューでは、ユーザーに共感することが重要だと言われている。すなわち、それはその人の人生に共感し、彼らの人生ストーリーを追体験することに他ならない。
一口に「車椅子に乗る高齢者」と言っても、彼ら一人ひとりには異なるストーリーがあり、そこにはあらゆる感情が潜んでいる。
そんなストーリーや感情は、アンケート調査からは決して浮かび上がってくるものではない。共感を通じた会話によって、初めて真相に迫ることができるのだ。
インタビューを積み重ねていくうちに、3人はそんな事実に気づき始めていた。それと同時に、インタビュー開始当初にあった、デザイン思考への疑惑や疑念は、彼らの中から完全に消え去っていった。