タカラ・ビューティリオンは、美容と建築をシンクロさせた、まさに未来型の店舗を想起させる先進的な建物だったが、実際はいまだに店舗建築に注意を払った美容サロンをそれほど多くは見かけない。
それは、店舗建築に対するセンスが問題というよりは、経営が長続きしないと予測されてしまい、建築にまで経費がかけられないというビジネス上の理由がいちばん大きいようにも思える。
とはいえ、30年も40年も続いている理容店も少なくないので、美容業界も建築事務所と連携が期待できると個人的には思っている。気鋭の建築家が手がけた美容サロンなんて、これからの時代に面白いのではないだろうか。
美容業界にも“デザイン”を
いま六本木ヒルズの森美術館で見られる「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」展は、日本の建築の集大成であり、今後の美容サロンの建築の参考になるのかもしれない。
古来の寺社建築から最先端の家まで時間軸を追って見せてくれるのだが、10mもある壁の天井から説明の文字を見上げたり、はたまた至近距離でまじまじと見たり、街を歩くような感覚で建築を体験できる。
前述した大阪万博「東芝 IHI館」の本物の部品も展示されている。万博の会場にあったものが、いま時を経て六本木にある。時の流れも感慨深く感じてしまう。
また、黒川の師匠である丹下健三らの作品が模型と一緒にならんでいる景観は、建築家ではなくとも、圧倒的なメッセージ性を感じる。名作建築の展示の間にはライゾマティクスのデジタル建築インスタレーションもあり、これがなんとも六本木ヒルズらしいのだ。
さて、タカラ・ビューティリオンで黒川が「未来の美容室」を見せてくれてから半世紀近く、果たして日本の美容業界は変わってきたのであろうか。当時、美容と建築の意外な組み合わせを多くの人が目の当たりにして、その出合いは実を結んだのであろうか。
いまから20年ほど前に、タカラベルモントは、ロボットシャンプーという装置を開発した。当初は都内のサロンでもよく見かけたが、時代が早すぎたのか、いつのまにかなくなってしまった。「未来の美容」への挑戦だったと思うが、私の記憶では、iPhoneのようなスマートなデザインではなく、工業用ロボット自動車洗浄機に近いイメージだったのが、普及しなかった原因かと思う。
パナソニックからも新しい美容器具はたくさん登場しているが、未来の美容は、美容を超えた表現が必要であり、建築やアートとの融合はもちろんのこと、新しいデザイン・コンセプトを持ったものが必要だと思う。銀色のボールが肌をコロコロする「ReFa(リファ)」の成功は、美容がつくる未来を表現しているデザインの勝利だと思う。