同年10月、日本初のビットコイン業界団体「日本価値記録事業者協会(JADA)」が発足。宮口はその創立メンバーとして金融当局の仮想通貨に対する理解を促した。
「最初に自分が考えていたビジョンとは全く違う立場から仮想通貨に関わるようになっていた」と宮口は話す。しかし、当時は仮想通貨の匿名性を利用し、違法薬物を密売する「シルクロード」の問題も大きく報じられ、仮想通貨に"闇の世界の通貨"の烙印が押されてしまう瀬戸際だった。
その後、17年には仮想通貨取引に適正な法的基準を設ける「改正資金決済法」も施行された。これにより日本は世界に先がけ、仮想通貨を法の枠組みに取り込むことになった。
法整備が進む中、企業のブロックチェーン技術への期待も高まった。17年2月にはイーサリアム企業連合(EEA)が発足。今ではJPモルガン・チェースやマイクロソフト、トヨタのAI部門や三菱UFJなど約200社が参加している。
一方でOmiseは分散型のモバイル送金サービスの「Omise GO」を発表。17年7月のICO(仮想通貨技術を使った資金調達)で2500万ドルの資金を調達した。
仮想通貨バブルと「コインチェック」流出
しかし、天才と呼ばれるブテリンにも予想できない事態が起きたのが17年だった。仮想通貨バブルの発生で、イーサリアムの価値も1年で約100倍の高騰となった。また、ICOの名を借りた詐欺の横行も問題化した。長谷川が話す。
「Omise GOのICOはあえて調達額の上限を定めて、必要以上の資金を調達しなかった。ICOそのものは次世代の資金調達方法として画期的なものだ。しかし、投機熱の高まりでネガティブなイメージが植えつけられることを危惧していた」
ヴィタリックは言う。「中身が無いプロジェクトがICOで巨額の資金を調達するケースも頻発した。でも、そうやって生まれたコインの90%は今後の数年間で死に絶えるだろう。プロジェクトが停止すれば、それはコインの死を意味する」
その後、2018年に入り仮想通貨市場は急落。取引所「コインチェック」から約580億円分の仮想通貨「NEM」が流出して以降、投機熱はやや静まったように見える。バブルが再燃する可能性もあるが、そんなことは彼らの関心の外だ──。イベントの登壇を数時間後に控えた宮口は言った。
「今はただ、周囲の雑音をシャットアウトして、やるべき仕事にとりかかろうと思っている。ECFの目的の一つは、イーサリアムのインフラを支える人々が仕事に専念できる資金を与えること。また、この技術で何ができるのかを社会に発信していきたい」
ECFのファンドの組成にはイーサリアム財団、OmiseGOのほか、異なるブロックチェーン間で自由にトークンを移動させる「COSMOS」や、日本のベンチャーキャピタルの「グローバル・ブレイン」も参加した。ECFは今後、開発者らに財政支援プログラム「Infrastructure Grant Program」を提供する。