──グローバルファンドは2030年までに三大感染症の流行終結を目標としている。実現できると思うか
我々はすでに(治療薬などの)終結させるためのツールを持っている。課題はどう実行するか。障壁となっているのは、資金などのリソースと、アクセスの問題。スティグマや差別によって、診断や治療が必要な人がそれらにアクセスできないケースがある。例えばエイズでは、差別や偏見を恐れて検査を受けない人が多く、HIV陽性の人を特定し、治療に結びつけるのが難しい。HIV感染が深刻なサブサハラアフリカ地域では、新規感染者の80%が女性や少女たちで、緊急アクションが必要だ。確かに相当な資金も必要だし、チャレンジングではあるが、目標達成できると思う。
──目標達成には巨額の資金が必要だが、どう調達するのか
日本のような先進国からの支援で資金調達できればいいが、どの国も寛大さに限界がある。今後は、(感染が発生する)地元の国内のリソース活用や資金の効率的な利用がますます重要になる。グローバルファンドの支援はほとんどが、ドナーと地元政府の保健予算の組み合わせだ。これによって、国際社会からの資金と国内のリソースを効率的に活用できるだろう。日本は資金面でもリーダーシップの面でも大きな貢献をしている。日本の納税者にはそのことをぜひ誇りに思ってもらいたい。
──民間企業との協力についてどのように考えているか
我々は民間企業とのレバレッジを今よりも強めていかないといけないと思う。民間企業がオファーできるのは、一つはもちろん資金提供。第二に、企業はイノベーションの能力や実行力に長けている。我々はそういった能力を持つ企業と連携することが求められている。
例えばコカコーラは、飲料品のデリバリーの仕組みを持っているが、それを我々の医薬品のデリバリーに応用した「ラストマイルプロジェクト」で、デリバリーの手法を飛躍的に効率化できた。また、結核に対する取り組みでは、携帯電話用のアプリを開発し、服用アドヒアランスが重要な抗結核薬の適正服用を促すとともに服用の有無を確認することができる仕組みをつくった。U2のボノによるREDも素晴らしい仕組みだ。携帯電話メーカーなどと組んで、REDの共通ブランド商品をつくっている。それを購入すると利益の一部がグローバルファンドに寄付され、アフリカのエイズ対策プログラムの支援になる。様々な方法で企業はグローバルファンドに貢献できる。
──日本企業に何を期待するのか
グローバルファンドが支援している国は、様々な医薬品やサービスを日本から調達している。調達額で見ると日本は4番目に大きい。例えば、住友化学は蚊帳や屋内残留殺虫剤噴霧の一大サプライヤーで、大塚製薬からは抗結核薬を調達している。そのほかにも診断機器を提供する会社もある。
他にも、様々な場面でイノベーションの余地が多々ある。安価な診断キットも必要だし、抗結核薬のより良い服薬ができる方法も必要だ。我々はアクセスが最も難しい国や地域で医薬品や医療機器を提供する。だからサプライチェーンの構築が喫緊の課題であり、そこにもイノベーションの余地があるだろう。情報分野でもイノベーションは必要だ。プロジェクトの成果測定の方法について、費用対効果を向上させなければならないし、感染症の流行パターンを理解し、発生場所を特定する新しいテクノロジーを使ったソリューションも必要だ。
──2018年はグローバルファンドにとって、どういった年になるか
結核対策は今後の行方を決める重要な年になる。結核を主要テーマにした初めての国連ハイレベル会合が9月に開かれる。結核問題の認識を高められるチャンスだ。また、インド政府による2025年までの結核流行の終息にむけた取り組みにも注力している。インドは結核によって大きな被害を受けており、世界の結核患者の25%がインドにいると言われている。もしインドの取り組みが成功すれば、世界の結核との闘いの風向きは一気に変わるだろう。インドのモディ首相のリーダーシップを他国の政治リーダーのモデルにしたい。
日本は国連ハイレベル会合の共同議長を務める。とても喜ばしいことだ。日本は1950年に死因1位が結核だったが、1951年から国を挙げた結核対策を実施し、それが大成功した。1961年に国民皆保険制度も始まった。結核を克服しながら国民皆保険制度を設立し、経済成長を達成した成功の物語は、多くのほかの国々にとっても参考になる、とてもパワフルな例だ。
ピーター・サンズ◎グローバルファンド事務局長。英国外務省、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年にスタンダード・チャータード銀行グループに入行。2006年から2015年までCEOを務める。世界銀行のパンデミックに備えるファイナンスに関する国際ワーキング・グループの議長も務めた。オックスフォード大学卒業、ハーバード大学大学院公共経営学修了。