マクリスタルはまた、米国陸軍の中で異端の考え方をする者としても知られた。アルカイダやISISが、登場した頃から変化し、洗練されたテロリズム集団となっていることに最も早く気づいた人物だ。急速に変化するスタートアップのような動きを見せるテロリストに対し、これまでと異なる戦い方が必要だった。
現在は退役し、よりスピードと柔軟性が必要な企業へアドバイスをするマクリスタル・グループを経営している。
──マクリスタル・グループにアドバイスを求めに来るのはどのような企業が多いか
失敗している企業ではない。私の所へ来る多くの企業が言うのは「我々は能力もあり、モチベーションもある。そして市場もある。しかし、目に見えない理由でうまくいかない」といったことだ。また「意思決定におけるスピードが遅く、実行において効率的ではない。能力はあるが、会社の中の別々の場所で機能がストップしており、内部での連携がとれなくなっている」という。
──何が問題なのか
よく言われていることではあるが、まずは組織の中でいかに情報を共有しているか、その情報を元に何を行っているかを見ることが必要である。彼らは意思決定を行っているか? その決定について社員は意思の疎通を図り、アグレッシブに実行に移しているか? 基本のように聞こえるし、皆「我々はよくできている」という。しかし、現実はできていない。彼らは会社内で「共に働く」ということに関して大きな問題を抱えている。
──なぜか
なぜなら、マネージャーは標準のオペレーティング手順に従うことを教えられて来ており、そこでは有機的なコラボレーションの必要はないからだ。
──これまではそれが機能してきた
その通りだ。何年も標準のオペレーティング手順は機能し、正しかった。しかし、今日のスピードと複雑性においては、機械的にすぎる。
──あなたの軍事的なバックグラウンドに話を遡らせると、アルカイダやISISとの闘いを通して、軍の在り方を見直さなければならなかったのではないか
そうだ。再考が求められた。統合特殊作戦コマンド(JSOC)は、対テロ対策を行う目的で作られた。22年に渡り、能力と専門性、テクノロジーの活用など、世界最高レベルのものになるように調整されてきた。
我々は文字通り、エレガントなことを行うことができた。精密な襲撃、人質の救助などだ。真っ直ぐに飛ぶ美しく仕立てられた弾丸のようだった。適切なタイミングで適切に発射されれば致死的だ。多かれ少なかれ予測可能な敵に向かっている限り問題はない。
しかし、イラクで直面したのは、異なる種類の敵と始終変化し続ける環境だ。一瞬のうちに決断を下さなければ間に合わなかった。我々はもはや銃弾のままでは立ちゆかず、銃にならなくてはならなかった。また、我々は常に変化する状況を把握し、引き金を引くタイミングを判断する脳を鍛えねばならなかった。弾丸は良いものである必要であったが、優雅さは重要ではなかった。有効性こそが重要だった。
組織は、これまでよりはるかに末端のレベルで以前は要求されていなかった理解や意思決定に責任を負わなければならなかった。しかも、それは一度しか有効ではない。文字通り、毎日組織のあり方を変えていかねばならなかったのだ。そしてそれは結果的に、組織内の関係性を変えることになった。
──伝統的な軍のヒエラルキー構造に挑戦しなければならなかったということか
公式な改革をしたわけではないが、誰がどんな情報を受け取り、情報がどう管理され、どこで決断が下されるのかが変わった。だがそれは、イラクでのアルカイダとの戦いで起きた過去のことだ。今、あなたの関心が「イスラム国」(ISIS)にあるのなら、ISISはウーバーだと言える。
──そんなかたちで引き合いに出されることをウーバーは迷惑がりそうだが
だが、ウーバーのビジネスモデルと似ているのは、ISISはその活動に対してほとんどまったく資本投資をしていない、ということだ。彼らがやっているのはフランチャイズの創出で、個々のフランチャイズが自発的に出来上がったものだから、現場の状況によく適合している。
ISISのメリットは、彼らが自分たちのことを「ISIS」と呼びたいと思っていることだ。成功すれば良いし、失敗しても投資を行っていないので問題ない。これはISISに特筆すべき柔軟性をもたらした。彼らは方向性を変えて、新たな投資を行うことができた。