キャリア・教育

2018.05.17 16:30

学びは「越境」から、理系文系に縛られない思考力|出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中にある幸せの価値観を知ることが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHow toを伝授する。

今回は、R=RiSu-Kei(理数系)について(以下、出井伸之氏談)。


皆さんは、理数系に進むか文系に進むか、選択を迫られた経験があると思う。多くの場合数学の成績から、理数系か文系かを決めるのではないだろうか。でもその選択の仕方はおかしいと私は思う。

実際、数字が伴わない人生はない。何か買うとお金を払うし、働けばお給料をもらう。さらに言えば、会社経営の実務は、B/S・PL・キャッシュフロー・ROI・ROEなど、数字が溢れている。

大学の学部でも気になることがある。心理学は文系の区分になることが多いが、学問的にデータ分析など統計学的な手法を取るため数字が伴いコンピューターでの処理が必要となってくる。しかし心理学の入試科目に数学はない。私が専攻した経済学も文系だが、ノーベル経済賞を受賞した人は経済理論を数式化していることが多い。

理数系的思考と文系的思考

このようなことを考えると、長い人生において"理数系"も"文系"も学ぶことが大切で、2つの思考力を持つことがこれからはさらに必要とされるのではないかと思っている。

先日、私は山形大学で特別講義を行った。この春入学した大学一年生160名に、この理数系と文系的の話をし「試験の良し悪しではなく、大切なのは思考力だ」ということを伝えた。

すると学生の目つきが変わった。学生からは、これからの社会で自分が行いたいこと、そのために何をするか、それにはどのような思考を持つことが大切なのかがわかった、というような感想が多く寄せられた。

海外では、理数系文系と分けることなく学び、両方の思考を持ちその後に生かす人が多いようだ。しかし日本は20歳にならないうちにどちらかを選択し、その延長上で人生の進路まで決めてしまうことが多い。

起業やモノを生み出そうとする時は、数字がつきまとうため理数系の知識は必須となる。多くのベンチャーでは自然と理数系思考の人が集まるのだが、理数系だけでなく文系の力も必要となってくる。

世の中には両方の思考を持ち合わせている人が結構いる。しかし学校の制度のせいで、両方の能力を持ちながらどちらかを一方を割り切ってしまう、いまの日本の現状は実にもったいないと思う。

芸術の分野にも少し触れておきたい。「M」でも話したように音楽はサイエンスだ。音は空気が振動する現象で、その速さを数値で表したものが周波数だ。音楽堂も最適な音響状態を与えるために緻密な音響工学で形成されている。人がなぜ感動するのかは、科学的に理論だっていると言われている。

美術もそうだ。評価の高い多くの絵画や作品は、黄金比率の数値によって成り立っている。

これからさらに情報社会になればなるほど、世の中のあらゆるものが理数化していく。データ分析さらにコンピューターのプログラミングなどは、ますます重要になってくる。
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インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 撮影=藤井さおり 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力=KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA

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出井伸之氏のラストメッセージ

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