未来学者と日本の関係
私は大学で経済学のゲーム理論とコンピュータ科学を学んだ後、現在の岩手県花巻市石鳥谷町に住みました。1990年代半ばです。英語を教えながら、コミュニティセンターで子どもたちと遊んだりする1年間のプログラムに参加し、そこで日本に恋してしまいました。結局、ニューヨーク・タイムズやエコノミストの記者をしながら3年間いました。
いったん帰国してコロンビア大学大学院でジャーナリズムを修め、01年にニューズウィークの特派員として日本に戻ると、毎日秋葉原に入り浸っていました。日本はあの頃、携帯電話のテクノロジーで世界最先端を走っていました。今もロボティクスなど最先端のテクノロジーはありますが、あのときの日本はすごかった。日本から生まれるテクノロジーと想像力豊かな発想にとても感動したんです。
05年に帰国して最先端テクノロジーを研究する施設を作りました。
新しいテクノロジーは、人々の仕事をどんどん楽にします。そのスピードが指数関数的に加速しています。そのうち、変化のスピードを人々は不快に感じるようになると思います。テクノロジーのなかには、人類にとって良くない方向に変化するものもあるでしょう。
誰が利益を得て、誰が誰のために働くのか、そしてその労働に対していくら得られるのか。そういった社会のあり方が大きく変わるでしょう。
未来の日本のために準備できること
日本は人口減少社会です。ロボットによって労働力不足が解決されると同時に、新たに社会保障上の深刻な課題に直面するでしょう。現状の社会保障の仕組みは、労働者が仕事をして所得税や社会保険を払ったものが再分配されます。しかし、ロボットは所得税や社会保険を払いません。新たな経済モデルと社会保障インフラの構築が必要です。
私の友人で日本人の僧侶がいます。彼の寺を案内してもらったとき、歴代の僧侶が屋根に使うための木を70年かけて育て、木材にしたと聞きました。自分が直接使うことはないとわかっていながら、次の次の世代のために木を育てているのです。今必要なのはそのような長期的な視点です。日本には昔からある伝統的な考え方かもしれませんが、今の若い世代にこそ必要です。彼らは短い間にめまぐるしい変化を経験することになる。だから現在だけではなく、次の次の世代まで考えなければいけないのです。
最悪から最良まで様々な未来のシナリオがあります。AIが今のスピードで進歩を続ければ人類最悪のシナリオになりえますが、実際に起きる可能性が高いのは最悪でも最良でもない。その間にあるシナリオです。
どんなテクノロジーでも、使い始めたら今後の使われ方はコントロールできません。事前に実用的なシナリオを作り、行動戦略を立てることが重要です。
今、日本で働く人々が将来のためにできるのは、シグナルに耳を傾けることです。世界で起きていることに注意を払い、普段耳にしない分野の情報にも触れる。そして行動に移す。一番いい未来への準備は未来学者のように考えることです。誰でも未来を見ることはできますから。
エイミー・ウェブ◎ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授。The Future Today Institute創設者。2016年に上梓した『The Signals Are Talking』がワシントン・ポストのベストセラーになった。合気道初段、日本語検定2級所持。