未来学者の仕事は、緻密な計算や情報収集の上に成り立っています。10年後の未来を予言はできませんが、質的量的データを集めて分析し、現状のトレンドが続くという仮定の上で、起こる可能性が高い未来を示すことができます。
私は大学教授として戦略的先見性についてMBAの学生に教えながら、2006年に創設したThe FutureToday InstituteのCEOをしています。新しいテクノロジーや科学による、既存のビジネスのディスラプション(破壊)、労働力の変容、地政学的な変化をウォッチして世界のリーダーや企業にアドバイスしています。
未来予測の6つのステップ
その方法を6つのステップにしてモデル化し、説明したのが『シグナル:未来学者が教える予測の技術』(ダイヤモンド社刊、原著はThe SignalsAre Talking)です。6つのステップは、視野を広げる考え方と、絞る考え方を行ったり来たりします。最初の重要なステップはとにかく社会の端っこに耳を澄まし、多様な情報を得ることです。
私はAR(拡張現実)技術が将来、現在のスマートフォンのようなプラットフォームになると思います。今年はスマートフォン時代の終わりが始まる年でしょう。我々は今、現行のスマートフォンよりももっとスマートな端末が使われるようになるまでの過渡期にいます。
2000年代初頭、私は携帯電話とカメラ、MDプレーヤーを持ち歩いていました。今はスマートフォン1台あれば事足りますが、また複数端末時代になろうとしています。何らかの電話の形の端末に加え、眼鏡型やリストバンド型などの様々なすべの端末が現れています。そしてまた最終的には全ての機能を担う1つに集約されるでしょう。
オフィスの生産性が見える眼鏡
ARやVR(仮想現実)の技術はエンターテインメントに使われ始めていますが、実はARは労働の生産性を上げるためのテクノロジーとしても注目されています。例えば、CEOが眼鏡型の端末をかけるとオフィス内の従業員のデータが視界に現れる。ある人は仕事が生産的で、ある人は仕事が進んでいない、という情報がリアルタイムでわかる。
またARを使って人々の気が散るのを防ぎ、仕事に集中できるようにする商品も考えられています。考えてみてください。私たちは一日に何度携帯電話を見ているでしょうか。そのたびに別のことに気を取られてしまいます。自分の視界の中に今必要としている情報だけを表示できれば、持続して集中できるようになります。企業にとって生産性の向上は非常に重要なテーマです。
もちろん、AI(人工知能)やロボティクス、自動化技術も未来の働き方を大きく変えるでしょう。中国では様々な種類のロボットによる自動化を実験的に取り入れています。フォックスコンの工場では労働力の20%がロボットで賄われています。
私たちの生きているなかで最も大きな変化はデジタルメディアのテクノロジーです。デジタルメディアなんて大したことない、誰がツイッターやフェイスブックなんて気にするのか、と嘲笑する有名人や知識人も多いですが、デジタルメディアによって、世界の政治勢力図が変わりました。我々は常に巨大な変化の渦中にいますが、それに気づいていません。