IT産業の中心シリコンバレーのお膝元にあるカリフォルニア大学サンタクルーズ校。同校で代理准教授を務める認知心理学者のレイラ・タカヤマは、ある日、心が躍っていた。初めて韓国に海外出張することになったからだ。
海外出張とは言っても、飛行機に長時間乗って行くわけではない。大学の自分のオフィスにいながらの出張である。それでも、タカヤマは韓国のオフィスの中を歩いてみなに挨拶し、会議で意見を述べることができる。そこには“拡張された自分自身”がいるからだ。それは、タカヤマ自身が開発に加わった、遠隔操作で動かすことができるテレプレゼンスロボットである。タカヤマは人とロボットが円滑にインタラクションできるよう、ロボットを“ヒューマン・フレンドリー”なプラットフォームにするための研究開発を手がける第一人者なのだ。
テレプレゼンスロボット開発のきっかけとなったのは、かつてタカヤマが働いていたロボット開発企業ウィロー・ガレージでインディアナ州から遠隔ワークしていた同僚ダラスの存在だった。ダラスは、会議にはデスク上のボックスを通して出席していたが、ある時、別の同僚が、カートの上にラップトップを載せ、オンラインを通じてダラスを会議に参加させた。しかし、ダラスは苛立ちを感じた。カメラを通して見たいところを見るためにはいちいちカートを動かしてもらわなければならなかったからだ。タカヤマはこの問題を解決すべく、遠隔操作できるテレプレゼンスロボットを開発した。
「このロボットは当初、その見かけから、“棒上のスカイプ”と呼ばれたり”ダラスボット”と呼ばれたりしていたのですが、やがてダラスと呼ばれるようになりました。ロボットがダラスという人格を持った人として、同僚たちに認識されるようになったからです」
ロボットの開発が進む中、ダラスのようにテレプレゼンスロボットを使って遠隔ワークする“ロボット社員”は、今後確実に増えてくる。そんな“ロボット社員”はどうすれば職場にいる人々と理想的に協働できるのか? その答えは、タカヤマが1年以上かけて、12社でロボットをフィールドテストした結果から、導き出されそうだ。
テストの結果“ロボット社員”は様々な形で仕事に貢献したことがわかった。例えば、遠隔操作機能を生かして、子育てや病気など様々な理由で出社できない場合でも会議に参加をして意見を述べることができた。タカヤマ自身も身体を痛めて松葉杖に頼らなくてはならなくなった時、ロボットを利用して会議に参加したという。同僚のオフィスに出向いて自己主張することも可能になった。メールの返信をしない同僚のオフィスを“ロボット社員”として訪ねて、返事を催促することが可能になったのだ。
職場の人々との絆も深めることができた。“ロボット社員”としてパーティーやスポーツなど職場の人々が集まる機会に出席できるようになったからだ。“ロボット社員”と職場にいる人々のインタラクションしながらの協働は仕事効率の向上に貢献したのだ。
一方でタカヤマは、テストを通して、ロボットを遠隔操作する人々(パイロット)と職場の人々(ローカル)の間で起きる様々な問題にも遭遇した。