エミュー3の開発に携わる日立アメリカの本間健シニア・リサーチャー(左)とレイラ・タカヤマ(右)
よく問題となったのはパイロットの声の大きさだ。パイロットはロボットを通した自分の声が、職場ではどれだけの大きさで聴こえるのか知るすべがなかったため、知らず知らず、音量を大きくしていた。
また、ロボットの操作法がよくわからず、物や壁にぶつかって職場の人々に迷惑をかけたり、ロボットを使用後、電源ステーションに移動させるのを忘れ、廊下に放置したままにしたりするパイロットもいた。
ローカルの方もパイロットに様々な問題を与えた。一つに距離感の問題があった。ローカルの中には、ロボットに接近し過ぎる人もいたため、パイロットの中には不快に感じる者がいたのだ。
「人によっても、文化によっても、自分がプライベートだと感じられる空間の広さは異なります。パイロットとローカルが互いに快適でいられるような距離感を取ることが重要です」
パイロットに不快感を与えるローカルの行動は他にもいろいろあった。ロボットのボトム部分に、脚を投げ出して話す行儀の悪いローカルや、パイロットの好みではないTシャツや帽子などを飾り付けるローカルもいたからだ。
また、パイロットと議論になって折り合いがつかない時、まるで電話でも切るかのように、ロボットの電源を乱暴に切ってしまうローカルもいたという。
様々な問題を目の当たりにしたタカヤマは言う。
「パイロットはロボットを自分の身体の一部だと考えています。そのため、ローカルは人と接するようにロボットに接する必要があるし、パイロットもまたローカルの仕事の邪魔となるような行動を取ってはなりません。重要なのは、相互にリスペクトしながら接することです」
職場では、人とロボットがそれぞれの責任の所在を明らかにして、棲み分けながら協働することも重要だ。タカヤマは、1951年、国立リサーチカウンシル委員会が人とコンピュータのインタラクションについて言及した“MABA―MABA”(menare better at,machines are betterat)という考え方(人が得意なところは人が行い、機械が得意なところは機械に任せる)で協働することを勧める。
例えば、病院では、患者に今後の治療方針を説明したり励ましたりすることは人(看護師)が行い、枕を分類したり、薬を数通りに正確に詰めたりすることはロボットが行うのだ。学校では、生徒の進路相談は人(教師)が行い、テストの採点はロボットがするのである。
「今後、仕事自体は変わっていくでしょう。しかし、仕事の中の細かなタスクは、人とロボットの間で棲み分けができてくると思います。誰にでもできるような単調な作業や、不潔で危険で退屈な、人がやりたがらない仕事はロボットがするようになるでしょう。そんなふうに棲み分けながら協働することで、仕事効率を向上させることができると思います」