今回は、Q=Quantum Leaps(クオンタムリープ)について(以下、出井伸之氏談)。
ソニーの社長に就いた1995年から2002年まで、私は多くのスピーチを行なってきた。そして2002年、そのスピーチをまとめた『非連続の時代』という書籍を刊行した。サブタイトルにはQuantum Leaps(クオンタムリープ)とつけた。
クオンタムリープとは、もともと量子力学の用語で、“量子的飛躍”という原子内の物理現象のひとつだ。つまり、量子状態の時に何らかの状況が重ね合わさることにより、別の状態に非常に短時間で跳躍することを指す。
いま起きているリアルとバーチャルの乖離
産業革命以降、技術の革新により重工業産業が発展して社会構造も変化し、飛躍的にGDP(国民総生産)も増加した。ソニーも技術とともに実に多くの飛躍をし、グローバル企業へと成長していった。創り出されるモノは大きいものから徐々に小さくなっていき、さらに時代はモノからデジタルIT(情報)産業へと変わった。同時に、価値も移行していった。
1993年、当時米国の副大統領だったアル・ゴア氏のスピーチで「情報スーパーハイウェイ構想」を聞き衝撃を受けた私は、社長に就任した1995年に「デジタル・ドリーム・キッズ」というスローガンを掲げた。それはデジタルの時代にソニーが変革する方向性を示す言葉だった。
クオンタムリープに込めた思い
インターネットが台頭した時、ものづくりに重点をおいたそれまでのビジネスモデルが世界的に崩れていった。しかし、日本の社会は産業革命時代の法律や制度のまま。そこでソニーも新しい情報時代のパラダイムに対応しようとしたため、結果的には情報革命の波に乗り遅れてしまった。ものづくりと情報が共存する時代に、新しいバリューを生み出すことができなかった。
それでも、ソニーをはじめ日本の産業は、ものづくりをベースになんとかこれまで生き残ってきた。この先、インターネットのようにグローバルに広がるネットワークに加え、信頼でき求心力を持っている新しい技術すなわちブロックチェーンやAI、IoTや5Gなどが急速に進歩していくと、世界的にそれらに合った法制度や社会システムの変革が必須となってくる。このネクストパラダイムにシフトしなくては、日本は本当に取り残されてしまうだろう。今これから、まさにクオンタムリープすることが必要となってくる。
このように飛躍的な進化の実現をさせたいという強い思いがあり、私は2006年に、それまでいた大企業ソニーとは真逆の小規模で知的な集団をつくった。ベンチャーやスタートアップを成功に導くため、触媒となって白い紙に地図を描くナビゲーターになりアドバイスをする会社「Quantum Leaps(クオンタムリープ)」だ。会社設立時には、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士が量子力学の用語を社名につけたことを大変喜ばれ、祝い鯛まで届けてくださった。