日本のホテル業界は、価格がリーズナブルになればなるほど、外観・内装ともに均一化が進んでいく。そもそも、ホテルへの「アクセス」と「値段」以外で、ホテルを選ぶ人は多くはないのかもしれない。
均一化が進んでいるホテル業界にも、最近、ユニークなコンセプトのホテルを手がけるプレイヤーたちが現れた。
ひとりは、ソーシャルホテルを銘打つ「HOTEL SHE, OSAKA」や、「CHILL」な温泉旅館「THE RYOKAN TOKYO」をプロデュースするL&Gグローバルビジネス。代表の龍崎翔子氏は、弱冠21歳の現役大学生にして、既に6店舗のホテルを経営する程の手腕を持つ。
もうひとりは、日本独自の文化である「カプセルホテル」を女性・外国人をターゲットに作りかえた、トランジットサービスを提供する「ナインアワーズ」だ。同代表、油井啓祐氏氏は1995年ジャフコに入社、ベンチャーキャピタリストとしてIT業界への投資に従事。29歳で経営者へと転身し、「ナインアワーズ」や「ドシー(℃)」などのカプセルホテルのブランドを手がける。
強いコンセプトを確立し、顧客を惹きつけている両ホテルには、「優れた問い」をビジネスに取り入れて事業創造をするという共通点があった。
元VCと現役大学生、なぜホテルだったのか?
龍崎:「HOTEL SHE,(ホテルシー)」というブランドのホテルを大阪と京都で運営しており、「シー」の名前を持つホテル同士ということで(笑)。前から油井さんが手がけるカプセルホテル「℃(ドシー)」が気になっていました。
油井:大学生で起業なんて……。 今の時代はすごいですね。僕は大学時代、体育会に入っていたので、21歳のときは部室と寮の往復でしたよ(笑)。
龍崎:私も1年生のときは、そんな感じでしたよ。家とサークルの往復みたいな。でも、1年生の時の終わりに起業し、ホテルの経営を始めました。まず、油井さんがホテル業を始めたきっかけを教えてもらえますか?
油井:実は「ホテル経営」をやりたくて会社を始めたわけではないんですよね。カプセルホテルを経営していた父が他界し、仕方なく相続したことが始まりです。
意外かもしれませんが、もともとは「ベンチャーキャピタリスト(VC)」だったんですよ。新卒でジャフコへ入社し、第一次ネットバブル期のベンチャー企業への投資業務についていたんです。当時のミッションは、“次のアップル”になるような世界で戦えるベンチャーを、日本で見つけること。通常、ジャフコはエリアで担当を分けるのですが、新設の部署ということで全国をまわっていました。
ナインアワーズ代表 油井啓祐
油井:しかし、“次のアップル”は見つかりませんでした。むしろ、時間をかければかけるほど「そもそも、日本からは生まれないのでは」と確証が生まれ始めました。
日本と米国企業では、ビジネスの“骨太さ”が違うんです。当時の日本のITベンチャー企業は、米国企業のビジネスを模倣し、「縮小版」を国内で展開しているケースがほとんど。自分たちでゼロからつくりだしたビジネスを、世界へ発信していく企業はありませんでした。
一方で米国企業は、自分たちのビジネスをコンセプトから「デザイン」している。たとえばアップルから出された製品は、どんなものを手に取っても「これはアップルがつくったものだ」とわかる。アイデンティティがビジネスに落とし込まれています。
龍崎:私も自分の会社では、建てたホテルが持つ「世界観」を大事にしています。宿泊価格が高くないホテルはほとんど代わり映えしないホテルばかり。それらのアンチテーゼとして、地域の空気感を織り込んだホテルブランドを提案しているんです。