ビジネス

2018.04.06 08:30

元VCと現役大学生、ホテル業界に現れた「革命児」たちの頭の中



HOTEL SHE, OSAKA

龍崎:たとえば私が大阪に開いたホテル「HOTEL SHE, OSAKA」のコンセプトは「ソーシャルホテル」。大阪の弁天町は、東京で言うと田端みたいな「マイナーな場所」。でも、実際は「昔ながらのレトロな空気」が残る町です。レビューサイトでは見れない地域の良さをキュレーションして、お客様地域の魅力を発信する「メディア」としての役割を持たせる狙いがあり、「ソーシャルホテル」と呼んでいます。

油井:「ソーシャルホテル」というカテゴリーは面白いですね。僕もナインアワーズを「カプセルホテル」だとはあまり思っていないんです。


ナインアワーズ 竹橋店

油井:カプセルホテルは日本独自のサービス形態ですから、既存の「カプセルホテルビジネス」の中にある本質的な良さだけを見直してリデザインすれば、世界中へ輸出できると考えました。。カプセルホテルが持つ構成要素や事業上の優位点を抽出して、「全然違うもの」をつくる。

ナインアワーズは「カプセルホテル」ではなく、「トランジットサービス」です。まるで都市の中で「トランジット」するかのように24時間、好きな時間にいつでも睡眠、シャワー等の休憩やリフレッシュができる。世の中に、トランジットサービスという「カテゴリーそのもの」を作りたかったんです。

ふたりの経営者の「発想法」。自分に問うか、世の中に問うか


L&Gグローバルビジネス代表 龍崎翔子

龍崎:ナインアワーズは女性や外国人が主なターゲットですよね。女性の「安くて、おしゃれなホテルに泊まりたい」、外国人の「洗練されたホステルに泊まりたい」というインサイトを読み込んでつくったのかなと想像しています。

油井:実はナインアワーズをオープンした際は、潜在顧客のインサイトを考える「マーケットイン」のアプローチというよりは、自分たちがつくりたいものをつくる「プロダクトアウト」の思想でつくりました。

だから、最初にしたことはデザイナーに頼んで、自分に対して「問い」を設定していくこと。「あなたが目指す本当の豊かさとはなにか?」「美しいとはなにか?」と、自分の中を深掘りしていくんです。

龍崎:事業創造をするにあたり、デザイナーに頼む人は多くないと思っています。デザイナーにビジネスデザインを頼む場合、実際はどのような過程で進んでいくんですか?

油井:カプセルホテルの「形」をデザインしたいわけではなくて、自分がつくる事業自体をデザインしてほしかったんです。

龍崎さんもホテルを経営しているからわかると思いますが、「ベッドの大きさ」や「温泉がついているか」など表面上の機能や装飾だけを見ると、強いコンセプトが成立しません。仕様書の上で設備が「ある・ない」で考えると、どのホテルも同じになってしまいます。

龍崎:それはとてもわかります。均一化していきますよね。

油井:今現在の常識とは無関係に「何が必要で、何が必要ないか」を独自に考えなくてはいけない。デザインの視点で、ありとあらゆる「無駄な装飾」を排除していって、本質を突き詰める。その過程で、自分に対しての「問い」をつくり、価値観を深掘りしていくんです。

まず、僕の人格を否定されるところから始まりましたね(笑)。「何が豊かだと思いますか?」と質問されたときは、嘘をつけない。質問に寄せて答えようとすると、自分の中にある「着飾った部分」が現れてしまう。結局、自分の中にあるものしかビジネスには反映されないと思っています。

龍崎:面白いですね。私は逆に、「自分がお客様だったら、もっとこの方が良い」と、ふと感じた疑問を大事にしています。そして、「そのアイディアを形に落とし込むとしたら、どうなっていくか」を発散させていくんです。

だから、自分たちの目指すホテル像を単一のプロダクトにしてしまうのではなく、軸はぶらさないまま、多様なアイディアをRemixして一つ一つ異なった形に落とし込んでいます。

一般消費者としての自分が持ったちょっとした違和感を、新しい提案に昇華させて世の中にリリースしてみています。そのコミュニケーションの中でだんだん解像度を高めて、アウトプットに変えている感じですね。
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文=奥岡ケント 写真=小田駿一

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