ビジネス

2018.03.28

箕輪厚介・中川ヒロミ「人を熱狂させるビジネス書」の作り方

左から幻冬舎の箕輪厚介、日経BP社の中川ヒロミ


「1か月1冊刊行」を達成する秘訣



荒木:それぞれの書籍は、どのようなプロセスで作られたのでしょうか?

箕輪:NewsPicksBookでは、毎月1冊ペースで本を作ることになっています。出版経験者ならわかると思いますが、これは本当にやばいペースです。この1年はひたすらネタを探して書かせ続ける、を繰り返していました。そんな中で個人の時間を売買できるサービス「VALU」に関心を持っていたら、「タイムバンク」のために有名人を紹介してほしいと佐藤航陽さんから声をかけられたんです。

それで初めて会ったのが2017年9月だったんですが、正直それまではブログの文章の印象もあって難しいことを考える人だと思っていました。ですが、「お金が変わります」と話す彼の目は少年のようにキラキラしていて。実はこの時の会話を僕のオンラインサロン「箕輪編集室」に投稿したら盛大にバズったんです。それで11月に執筆をオファーして、3週間で一気に書いてもらいました。

荒木:すごいペースですね。どうやったらそんな早さで本が出せるんですか。

箕輪:一番大事なのは、著者に原稿執筆を自分ごとにしてもらうこと。佐藤さんには「タイムバンクのリリースに合わせるなら、11月に出さないと意味ないですよ!」と発破をかけまくりました。

毎月1冊仕上げるためには、とにかくモチベートすることが大事です。腱鞘炎になってでも一緒に日本を変えよう、現象にしようと勢いでここまで突っ走ってきました。佐藤さんのような哲学者は、一人の人間として本気でぶつかったらきっと応えてくれると信じていました。

荒木:お二人の本は読者からの反響も大きかったと思うのですが、明確な手応えを感じた瞬間はありましたか?

箕輪:初動もよくて、ほぼ同日に出した落合陽一『日本再興戦略』と併せてNewsPicksを読む若者のバイブルになっているのがはっきりわかりました。

ですが、それ以上に広まったと感じたのは、電車の中吊り広告を出してからです。これは佐藤さんが提案した手法で、ネット感度やビジネス感度が高い人のパイは取り切ったから、それ以外の人にリーチするというために打ったんです。

それからは母親から「最近ビットコインの価格が下がって不安」とメールがきたり、黒木瞳さんがラジオのゲストに佐藤さんを呼びたいとお話しされたりしたんです。いつもとは違う広い層を取ったと実感しましたね。

荒木:ビジネス書をあまり読まない層にまで普及したということですね。中川さんはいかがでしょうか。

中川:『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2年前に発売して10万部を売り上げた『HARD THINGS』の中で後進育成の名著として紹介されています。どちらも成功法則ではなく、経営が傾いたときや友人をクビにするときにどうするかというCEO向けの本なので、需要は限られていると予想していたのですが……。何かに立ち向かう人や何かを作りたい人に大きく響いてくれたようです。

荒木:私も以前読んでいたのですが、本質は詰まっているものの見せ方で損をしていると思っていました。そんな中での今回の出版で、一気に火が点きましたよね。

箕輪:翻訳本をヒットさせるのは本当にすごい。僕はコミットタイプだから、本人に会わなければなかなか結果を出せないんです。

無数にあるコミュニティを、一つずつ取っていく


左から幻冬舎の箕輪厚介、日経BP社の中川ヒロミ、グロービス経営大学院経営研究科副研究科長の荒木博行

荒木:これからビジネス書、引いては読書の位置付けはどのようになるのでしょうか。NewsPicksBookはこれまの書籍とは立ち位置がちょっと違って、書籍がコミュニティの入り口になっているように感じます。

箕輪:僕としては毎月1冊ずつ出していくだけですが、おっしゃる通りです。うちの書籍がそうした役割になっている背景には、現代の情報爆発があります。例えば、数年前の市場なら仮想通貨の本を出せば確実にヒットしていたはずですが、いまではそうはいきません。動画やウェブ記事など1つのジャンルに関する情報が大量に存在していて、1人では情報を追いきれないからです。要は、人間の情報処理が限界を迎えているんです。

こういう時代に、コミュニティは重要な役割を果たします。どの本を読むか自分だけでは判断できないから、信頼している人のオススメをジャッジの材料にする人が増えるからです。作り手としては「箕輪が出すなら読むか」と思ってもらえるコミュニティを作って、そこに投げ込むしかないんです。

荒木:インフルエンサーになるということでしょうか。

箕輪:もちろんそうですが、僕はあくまで本を売る立場なので、頭の中に箕輪ファン、堀江ファン、ビジネス書のファンというようにコミュニティをいくつかの円でイメージしています。本を売るためには、このコミュニティを一つずつ埋めていく感じで、対談などをセッティングするんです。例えば落合陽一さんの『日本再興戦略』なら情報感度の高い層にはすでに届いているから、次に小泉進次郎さんと関係を持つことで、政治に関心のある高齢層の円を取りにいく、というように。
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文=Forbes JAPAN 編集部

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