『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』の著者に聞く
今回記事を執筆するにあたり、『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』(早川書房刊)の著者ルーシー・クレハン氏にインタビューしました。
同書は、イギリス人教師のクレハン氏が、PISA(3年に一度、15歳を対象に実施される国際学力テスト)トップの国々の教育を調べまわった紀行をまとめたもので、同氏の目を通して、フィンランド、日本、シンガポール、中国(上海)、カナダの5か国の教育制度や教育事情について知ることができます。
インタビューでクレハン氏は、小さい国で効果が出ている方法が必ずしも大きな国で効果が出るとは限らないことを指摘しつつ、「フィンランドやシンガポールといった小さな国々と比較して、日本は大きい。これだけの人数に対して、レベルの高い教育を行なえている国は数少ない」と日本の教育を評価。経済成長が著しい国か、緩やかに下降していく国かによっても将来求められる人の資質が異なるとし、「その国が価値をとしていることを基準に、教育システムを考えること」が大切だと言います。
本の中で紹介されている日本の事例は、細かい点では間違っていたり、誤解と思われる内容もあるのですが、そういうマイナス面に目をつぶって読むと、私たちが受けている教育の良い点、悪い点の両方が見えてきます。
たとえば、日本の算数で棒グラフを教える過程は「良い点」としてあげられています。授業でまず棒グラフの説明から入るのではなく、コップや花瓶といった日常にあるもので入る水の量を比較し、その違いをどうまとめるかを子供たち考えさせてから、棒グラフという表現方法があることを教えることで、棒グラフの概念への理解を深めているからです。
クレハン氏は、実際にどんな場面で使ったり役立てたりできるかを教えているこのアプローチは、生徒に知識を与えると同時に、問題の解決法を考させていると評価しています。日本では当たり前のような授業内容ですが、その優れた点に気づかない人も多いでしょう。
日本で子育てすることを決め、また同書で日本の教育を見直してはいますが、日本を賞賛するわけでも、するべきだと言うつもりもありません。でも、すべてを卑下する必要はないと考えています。良いと思うところは認め、悪いと思うところは、どうしたら良くなるのかを議論していく──。そうして、自分が今いる場所を、未来の子どもたちのために良い環境にしていくことが大切なのではないでしょうか。