2014年に創業のセンスタイムはディープラーニング技術を活用した画像認識分野で優れたテクノロジーを持ち、顧客は中国銀聯やチャイナモバイルなど400社以上。OPPOやVIVO等のスマートフォンメーカーをはじめ、自撮りアプリの「SNOW」も同社の顔認識機能を用いている。また、エヌビディアやクアルコムとも提携を結び、AIチップの開発を加速させようとしている。
センスタイムは17年7月のシリーズB資金調達で4億1000万ドル(約460億円)を調達。現在の企業価値は20億ドル(約2130億円)を超えるユニコーン企業だ。
同社の中核をなすのはディープラーニングやコンピュータービジョンに深い知見を持つ18名の大学教授たち。清華大学や北京大学、マサチューセッツ工科大学などでAI技術を学んだスーパー頭脳集団を率いるのが現在36歳のCEO、徐立(シュー・リー)だ。
「長年の研究を通じて磨きあげた技術には自信があったけれど、ここまでのスピードで事業を拡大できたことは自分でも驚きだ」と徐は話す。
いわゆる“大学発ベンチャー”であるセンスタイムのルーツは、コンピューターサイエンス分野のアジアのトップ校、香港中文大学(CUHK)。徐はそこで画像認識を学び、博士号を取得した。
「画像認識分野でブレイクスルーが起きたのは2010年頃。ビッグデータを活用したディープラーニング技術の活用が始まった。自分たちは世界的にも早くこの領域の研究を始め、2011年からの3年間で世界トップレベルのディープランニングを活用した画像認識の論文14本を発表した」
なかでもターニングポイントとなったのが2014年に発表した論文。顔認識分野で、コンピューターの精度が人間の能力を上回ったという研究結果は世界的ニュースになった。
「これまでの学術的成果を実用化に結びつける時が、いよいよやって来たと思った。その後しばらくすると、中国のベンチャーキャピタルから出資の提案が舞い込んだ」
そして、IDGキャピタルの主導でシリーズA資金を調達。2014年の末にセンスタイムは始動した。
画像認識コンテストで世界1位に
「最初のクライアントは当時、中国で勃興したオンラインの消費者金融の企業たちだった。融資プロセスにはウェブ経由で送信された身分証明書の写真と本人の写真を照合する作業が欠かせない。その処理を自動化するセンスタイムの技術が重宝され、次々と他の企業からも依頼が来た」
2015年にセンスタイムは世界的な画像認識コンテストの「ImageNet」で1位を獲得し、さらにその地位を強固にした。
CEOの徐は1981年生まれ。上海のゼロックスでエンジニアを務めた父のもとで育った。
「父は中国のテック分野の第一世代のエンジニアで、自分が幼い頃に会社を辞めて起業した。父の影響で小さな頃からテクノロジーには関心が高かった。様々な知識を自分で本を読んで身につけた。学校で教わることや権威とされている事は信じず、自分で学んだことを重視していた」
中学時代に応募した物理学のコンテストで優秀な成績を収め、上海でトップクラスの高校に進学。その後、2000年に上海交通大学に入学した。
「当時はクローン羊のドリーが世界的ニュースになった時代。バイオテクノロジー分野も気になったが、自分はコンピューターサイエンスの道に進むことに決めた。その頃、人工知能領域ではコンピューターに人間の言語を理解させる自然言語処理と、イメージデータを処理させるコンピュータービジョンの分野があった。自分は結果が目で見て確認できるコンピュータービジョンに興味を持った」