論理や分析のうえに成り立つサイエンスも、アートと同じように世界観がついてまわる。直観や感性のかたまりのようなアートも、その表現に至るまでの確固たる道筋が存在する。経営戦略をアートやサイエンスになぞらえて語る学者もいるが、それは経営が両方を併せ持つ多様な側面を持っているからであろう。
経営と人事は常に密接な関係にある。戦略人事を考える際に常に念頭に置くべきは、下図の関係性だ。会社のミッション・ビジョン・バリューを実現するために、中長期経営戦略があり、人事ポリシーがある。人事ポリシーとは、ビジョンやミッションを実現することを目的に、組織や人に対する企業組織の取り組みのあり方や方向性を指し示したものだ。
人事ポリシーをもとに、必要なHR(Human Resources)施策を領域別に具体化し、実行する。その実行は常に経営戦略と密接に進められるため、戦略を実行するために先んじて採用・育成をすることもあれば、戦略実行する中で必要となった人事面の整備をすることもある。
こうした一連の人事施策を考える中で必要なのが、冒頭のサイエンスとアートという視点ではないだろうか。
人事におけるサイエンスとアート
ファクトを分析して決定を導くサイエンスの世界。ファクトをもとに検討することは人事でも重要だ。たとえば採用活動においては、どの媒体からどのような属性の人が応募してきたか。どんなWeb記事更新を行うと、どのような反応があるか。短時間でもいいので検証することが、仮説づくりに役立つ。それがあって始めて、PDCAを回すこともできるし、経営層と議論できるようにもなる。
一方、直感的に表現するアートの世界。そこに再現性は生まれづらいが、一人ひとり多様な人を対象にするからこそ、人の機微を大切にすることは必要だ。何かの一瞬に生じる感情が、ある人にとってはたいしたことがなくても、別の人にとっては重要な場合もある。
HR施策をするときには、必ずファクトから導くマクロな視点と、一人ひとりに目を向けるミクロな視点の両方が必要になる。しかし、この両者は時に矛盾するかもしれない。全体にとって必要なことが、個々人にはうっとうしく捉えられることは往々にしてある。そのときの判断軸が「人事ポリシー」だ。
我が社は何を目指してどういう期待を人に込めているか。経営は「人」についてどのように思っているか。人事施策をつくるとき、あるいは改訂するとき、まずここを固める必要がある。たとえば従業員の行動を見るときに性善説に立つのか性悪説に立つのかによって、人事制度のつくり方も、マネジメントに求めるやり方も変わる。
大事なのは、経営者の個人的な思想にとどめるのではなく、ポリシーとして表出化することだ。そのポリシーに端を発し、採用や評価施策をつくっていかないと、ファクトに振り回されたり、声の大きいひとりの意見に振り回されたりしてしまう。
そのポリシー制定において重要なのは、経営者の考え、組織風土や業種特性、それと現場実態をしっかり認識した人事責任者の視点を踏まえ、企業ごと独自につくること。さらには、人事責任者としての情熱を上乗せし、熱量が失せない人事ポリシーを創り上げて欲しい。
堀尾司の『人事2.0 ──HRが作る会社のデザイン』
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